18世紀のインフルエンサーが生み出した海賊版対策!怒りの「著作権」伝説

2018年9月、欧州議会において「著作権法の改正」が可決された。

賛否両論入り乱れるネット文化時代の「著作権」は、まだまだ難しい課題が多い。欧州議会はしかし、メディアの制作者にも著作権保護を与えることに賛同した。

もし現代に、英国の画家ウィリアム・ホガースが生きていたら、この様子を鋭いタッチで風刺画にしていたに違いない。なぜならば、彼こそが絵画における「著作権」という概念を生み出したからである。

彼の名を冠した「ホガース法(Hogarth’ s Act)」は、1735年に誕生している。

 

不遇の英国美術の時代に生まれた画家

Credit : Wikimedia Commons

ウィリアム・ホガースは、18世紀の英国を代表する画家として名高い。

しかし当時の英国では、オランダやイタリアの古典的な美術ばかりが礼賛され、英国生粋の芸術家には非常に生きにくい時代であった。

画家としての技能は一流であったにもかかわらず、ホガースは生活の資を得るために、店の看板、書籍の挿絵、招待状のデザイン、舞台の背景などなどあらゆる仕事を請け負った。それでも、家族を養うのにはかつかつであったという。また、彼の父親は詩人であったが、幸運に見放されて最後は牢獄で死に、若いホガースは父の負の遺産である借金返済にも頭を抱えていた。

 

風刺画家として一世を風靡

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ウィリアム・ホガースは、生涯を戦いに捧げたといっても過言ではない。

1728年には、タペストリーの制作者ジョシュア・モリスから下絵を請けおったが、その支払いをめぐって法廷で争ったこともある。

30代半ばになったホガースは、1731年に当時のロンドンを席巻することになる『娼婦一代記』を発表する。6枚からなる版画は、田舎から出てきた若い女が娼婦となり梅毒で死ぬまでを描いた作品である。イギリス特有のユーモアを駆使したことが、彼を国民的スターにした理由であった。

版画であったから、ホガースは売りたいだけ作品を印刷し販売することができた。また、宣伝や広告の仕事に従事した経験から、カリグラフィーの美にも一家言あったようだ。

大衆の嗜好をこの作品からつかんだホガースは1733年、今度は8枚の版画からなる『放蕩一代記』を発表。

現代では、ホガースのこうした風刺画は「芸術作品」として扱われる。しかし、中流階級に生まれたホガースがそれを逆手に取り、少しばかり品が下る「ゴシップ」レベルの絵画を描き、一世を風靡したのである。ホガースが、「著作権」だけではなく「風刺漫画」の父とも呼ばれる所以はここにある。

 

海賊版が出回るほどの人気に ホガースが講じた策とは?

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こうして、自由に自作品を世に出すことに成功したホガースだが、その「自由」が無関係の他者にまで許されることには我慢がならなかったようだ。

ホガースの作品の人気高騰により、質の悪い模倣品や海賊版が次々に売り出され、ホガースとは無関係の人々の大儲けするようになる。ホガースは対策として、まず出版を中断。海賊版を販売した業者とは、その後の取引をしないことを通達した。

ホガースはさらに、これが個人の問題として終わることもよしとはしなかった。議会に赴いて、仲間の版画家たちとともに作品の複製を管理する法律の必要性を訴えたのである。

この努力が実を結んだのは、1735年6月25日。この法律が晴れて公布された後、ホガースは活動を再開し、ロンドン市民を愉しませる作品を次々に生み出した。

 

先駆的な芸術家として

その後、ウィリアム・ホガースは先駆的で社会的な芸術家として活躍をつづけた。市民階級の生活を描きながら、強いメッセージ性を持つ作品を世に送り続けたのである。

1751年に発表した『残酷の4段階』では、英国の国民的作家で判事でもあったヘンリー・フィールディングとともに当時のロンドンにはびこっていた犯罪への警句を訴えている。同時期に、英国政府が打ち出した反アルコール中毒の一環であった酒造法の改正にも賛同し、『ビール通りとジン横丁』を出版した。

英国のエリート主義、市場、社会悪、世の中の風潮、伝統、あらゆるものと戦い続けた男、それがウィリアム・ホガースである。

しかし、彼の主張を受け入れ「著作権法」を公布した英国政府の英断も、非常に近代的であったといえよう。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007