レオナルド・ダ・ヴィンチは地質学が生まれる前から地質学者だった…占星術をからかうエピソードも

2019年は、レオナルド・ダ・ヴィンチの500年忌である。

それを記念して、2018年10月30日から、ビル・ゲイツが所有するレオナルドの「レスター手稿」がフィレンツェのウフィッツィ美術館で公開されることになっている。

500年以上も前にレオナルドは、地球の温暖化を予感し、地質学という分野が誕生する以前に地質を研究したことが明らかになっている。

 

「地の温度が上昇し、生物は消滅する」という予言が残されたアランデル手稿

Credit: Wikimedia Commons

レオナルド・ダ・ヴィンチの話題ともなると、あらゆる科学者が血道をあげるのが常になっている欧米では、2019年の彼の500年忌は珍説や奇説が登場する可能性が大いにある。

フィレンツェのガリレオ博物館館長パオロ・ガッルッツィ氏は、改めてレオナルド・ダ・ヴィンチの本質をかれが遺した手稿から探ろうとしている。

レオナルドの手稿は、それが展示される美術館の観客動員数が大幅に伸ばす効力を持つ。彼はこれらの手稿を、全くプライベートに内密に、誰かに読まれることなど想定もしないで書いていたというのがガッルッツィ氏の意見である。よく知られる「鏡文字」、つまり右から左から書かれた文章は、解読が安易ではない。ひとつには、キリスト教会と意見を異にする彼の保身があったともいわれている。後述するように、レオナルドは当時としては異端ともいわれかねない思想を持っていたからだ。

レオナルドの時代の宇宙観は、アリストテレスの「四元素」の説が普及していた。つまり、人間や動物の住む「地」が核にあり、その上に「水」「空気」「火」と続く。

レオナルドは、将来この「水」の動きが停滞し人間や動物が住む「地」が水に沈み、魚だけの世界になると予言している。さらに、水に沈んだ「地」が上昇し、「火」の層に触れることによって生物は滅亡するという黙示録を残したのである。

地球の温暖化は、温室効果ガスの増加が原因とされている。いかにレオナルドが天才でも、彼の思考がそこまで及ぶわけがない。しかし科学者たちは、当時の人間としては珍しく「人間」を特別視せず一動物と考えた点や、実際の状況を経路こそ違え予言したことについては、レオナルドはやはり天才であったと語るのである。

 

キリスト教会や占星術をおちょくるレオナルド

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レオナルドの手稿には、キリスト教会をあざ笑うような記述も多い。たとえば、ビル・ゲイツ所有の「レスター手稿」には旧約聖書に登場する「ノアの箱舟」で有名な「大洪水」についてのメモがある。レオナルドは、40日間絶え間なく雨が降るなどありえないとし、皮肉を込めて「誰がきっかり40日間と数えられたのか(Come disse chi tenne conto d’esso tempo)」と書き記している。また、大洪水の後の水位が山の頂上をも覆った(創世記7:19)という箇所にも、「水位を計測した人でもいたのか(Come scrisse chi li misuro`)」とおちょくるのである。

しかし、嘲笑するだけではないところが、レオナルドのレオナルドたるゆえんであろう。口は悪くて才能があるところは、同じトスカーナ人であったミケランジェロとの共通点でもある。性格も資質も異にする2人の天才は、非常に似通った点も有していたのだ。

レオナルドが幼少時代を過ごしたトスカーナの山々には、貝の化石が数多く残っていた。レオナルドはこの貝の化石に、「ニッキ(nicchi )」という独特の呼び名をつけている。「ニッキ」とは、教会内に残る「壁龕」のことである。くぼんだ部分に聖母像や聖人の像をおいたこの「ニッキ」は、上部が貝殻の形をしていたのだ。

当時の占星術師たちは、山々に残る貝の化石は「かに座の星たちによって、地に刻印されたもの」と主張していたが、レオナルドは納得できない。

彼が着目したのは、水の流れであった。

 

距離を計測する「プトレマイオス図」を形態学に応用

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山岳地帯に残る貝の化石についてのレオナルドの説は、彼の頭脳の冴えを顕著に表す事例としてよく紹介される。

レオナルドは、当時は距離を測るために使用していた「プトレマイオス図」といわれる地図を、形態学に応用した。化石や山岳図を参考に、レオナルドはヨーロッパ大陸の平野は古代には海に覆われていたと考えたのである。地球を容器のように見立て、山岳地帯と平野間で水の流れがどこを通過しどこで停滞するか。貝の化石が集中していたのは、アルノ川の川幅が狭くなるゴルフォリーナと呼ばれる地域であった。古代には、ティレニア海の水がこのあたりで停滞した、とレオナルドは考えたのだ。こうして、彼は山に残る貝の化石の謎を解決したという。

 

ちなみに、「地質学(geologia ) 」という言葉は、1603年に初めて登場する。あらゆる学問、思想の垣根を取り払って冷徹な目で自然と人間を見つめたレオナルドらしいエピソードである。

 

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007