よく晴れた秋の日に、本を虫干ししたり、布団を天日干しにするのにはわけがある。太陽光に含まれる紫外線には、優れた殺菌作用があるからだ。

逆に、紫外線が届かない屋内では、殺菌作用が働きにくい。いまや住宅やビルなどに使われる窓ガラスのほとんどにUVカット加工が施されており、建物の内部まで紫外線を通さない。
たとえば、室内のホコリ――いわゆるハウスダスト――は細菌の温床なのだそうだ。ホコリの大半は衣類や寝具から出る綿ボコリだが、繊維が絡んで複雑な構造をしているため、細菌やカビのたまり場になりやすいという。
花王が2014年に行った家庭のホコリ調査によれば、リビングやトイレの床の上のホコリ1g当たりに、約100~260万個の細菌が潜んでいるらしい。種類によっては病原性が高いものもあり、あなどれない。
細菌を少しでも減らすには、こまめに掃除機をかけておくに越したことはない。でも時間がなくて…と多忙な毎日を送る我々の頭上から、救いとなって射しこむ光――それが可視光だ。

このたび、オレゴン大学の研究者により、可視光が紫外線のように屋内の細菌を減少させることが科学的に証明された。
ハウスダストに住んでいる細菌を異なる状況下において調べた結果、最終的に暗い部屋では12%程度が生存能力を持っていたのに対し、可視光を当てた部屋では6.8%、さらに紫外線を当てた部屋では6.1%だったという。
単純に計算すると、太陽光のおかげで細菌が半減しているようにも思えるが、結果はそれよりも複雑だ。なぜなら、太陽光がある場合とない場合では、生存している最近の種類にも違いが見られたからだ。

実験において、研究者たちは11個の小さな「部屋」を作り、そのうち3つには可視光を、3つには紫外線を当て、3つは窓をアルミ板でふさいで光が入らないように細工した。のこりの2部屋には可視光とUVを測定する光センサーを設置した。そしてハウスダストを小さな部屋の中に仕込み、9か月後に再び採取して細菌の量、種類と、生存能力の有無を調べた。
ちなみに、実験に使われたハウスダストは、オレゴン州ユージーン市在住のボランティア7名が自宅の隅々まで掃除機をかけて集めたそうだ。研究者たちは提供されたハウスダストを均等に混ぜ合わせてから、ハサミで切り分けたという。書いているだけでクシャミが出そうだ。

こちらが実験の結果を表わしたグラフだ。
左端の暗闇に閉ざされていた部屋(Dark)では、明らかに細菌が多く繁殖していた。呼吸器系統の病気を引き起こす原因となる細菌が多かったこともわかった。
中心(Visible)の可視光が降り注いだ部屋では、細菌の繁殖がより野外環境に近くなることがわかった。人の皮脂を好む細菌の割り合いが減り、野外で繁殖する種の細菌が増えたそうだ。

この実験で、細菌の種類によっては、紫外線より長い波長を持つ可視光にも殺菌作用があることがわかった。
一日のほとんどを屋内で過ごす人には朗報だ。建物のデザインによって、光の入り具合は大きく変わる。窓の有効採光幅を最大限に引き出した建築ならば、より多くの太陽光が室内にふりそそぎ、室内環境も変わってくる。
やはり、「日当たり良好」は健康な暮らしには重要な条件のようだ。
山田 ちとら
*Discovery認定コントリビューター
日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材やインタビューにも挑戦中。根っからの植物好き。掃除はずぼら。 https://chitrayamada.com/