【ボーダーを超えていけ】第4回:人はどこまで深く潜れるのか-水深100m「グラン・ブルー」を超えて

  • 脳に酸素が集まっていくーブラッドシフト

その変化は顔を水につけた瞬間から始まる。「目や口の周りにある三叉神経が冷たいという刺激を受けると、脳から『心拍数を落としなさい』と指令が出る。すると心拍数がスローダウンして酸素を有効に使えるようになります。潜水反射です」(篠宮さん)潜水反射は誰にでも起こる反応だが、日々鍛錬するアスリートは反射が大きく、反応が鋭く立ち上がる。

次に起こるのが「ブラッドシフト」。酸欠状態になると脳、心臓、肺に血液が集まっていく。「この3つ(の臓器)が止まると最悪の場合、死に至る。生命維持のためにより必要な場所に血液を移動させるのです」。手や足から血液が移動するため、手足の感覚は鈍り、だるくなっていく。ブラッドシフトはイルカやクジラなど海の哺乳類に見られる能力だが、篠宮さんは水中に入ってわずか2秒後に起こり始める。「血液が集まるということは酸素が増えるということ。潜っていくと特に肺が楽になってブラッドシフトが起こっているのを感じます」

  • 眠っていた能力を引き出し、12気圧に耐える身体を作り上げる

さらに驚くべきは水圧対策。約12気圧もの水圧に、肺などの器官をどうやって守るのか。篠宮さんの武器は柔らかな横隔膜だ。ヨガなどのトレーニングによって、柔らかな横隔膜を手に入れた。水圧があがると勝手に横隔膜が上がって肺を持ち上げる。肺を小さくすることで肺内部の圧力を高め、高い水圧に耐えることができる。「練習しないと、横隔膜が硬くなり上がらずに水圧に負けてしまう」。体の柔軟性を高め深海になじむ体をつくりあげているのだ。

潜水反射、ブラッドシフト、柔らかな横隔膜。すべて人間が元々持っていて、放っておけば退化していく能力だ。約10年間のトレーニングによって篠宮さんはこれらの能力をうまく引き出しパフォーマンスをあげていった。だがこうした体を手に入れれば万全かと言えば、そうではない。カギを握るのは「脳」であり、「フリーダイビングは判断力のスポーツ」だと言い切る。実は判断を誤った苦い経験が、篠宮さんにあった。

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