人喰いバクテリアの脅威…神経細胞を乗っ取り、激痛の上死に追いやる

手足の痛み、脹れ、発熱。激痛がはしり、一瞬のうちに症状は悪化、数十時間以内には、皮膚がただれ、細胞が死滅し、急激な血圧低下・全身の臓器が動かなくなる…劇症型溶血性レンサ球菌感染症をご存知だろうか?

この衝撃的な疾患を引き起こす人喰いバクテリアが、なぜこんなにも短期間で増殖するかは長年の謎であった。

ハーバード大学医学大学院のIsaac Chiuらは、人喰いバクテリア作り出す毒素が人喰いバクテリアの増殖に関与していることを発見した。

人喰いバクテリアとは?

劇症型溶血性レンサ球菌感染症は主にA群β溶連菌という細菌によって引き起こされる。A群β溶連菌は小児の咽頭炎原因菌として知られているが、人喰いバクテリアと呼ばれるのは、このうち強力な毒素を生成するものだけである。

人喰いバクテリアによる感染症は1987年に米国で最初に報告され、その後、ヨーロッパやアジアにおいても相次いで感染が確認されている。日本では1992年に初めて報告された。

2012年頃の感染者は毎年200人程度であったが、近年その数は急増し2017年は年間539人が、そして2018年は9月19日現在で506人もが、人食いバクテリアに犯されている。

怖いのは感染者が増えてるということだけではない。この感染症は今まで病院にかかったこともないような、健康な成人でも突然発症することがあり、適切な治療をおこなっても感染者の30%は死亡する極めて致死率の高い感染症なのだ。

Credit: Creative Commons

治療は?

残念ながら有効なワクチンは存在しない。人喰いバクテリアによる感染症にかかると、みるみるうちに全身の臓器にも影響が及び、呼吸が苦しくなったり、排尿困難になりかねない。全身の臓器の機能をサポートしながら、手術により感染部位を取り除き、抗菌薬を投与していく。

 

人食いバクテリアは神経細胞をハイジャックしている!?

人食いバクテリアの感染症は激痛を伴う、急激な症状の悪化が特徴的である。ハーバード大学医学大学院のIsaac Chiuらはこの痛みに注目し、人喰いバクテリア作り出す毒素が、神経細胞に作用し激痛を引き起こすと共に、免疫細胞の活動を抑制する物質を誘導し、人喰いバクテリアの繁殖を容易にしていることを発見したのだ。

人食いバクテリアの毒素により我々の神経細胞は操られ、細菌の増殖を手助けしていたのだった。

Credit: Creative Commons

人食いバクテリアの増殖を防ぐ新たな方法の鍵

Isaac Chiuらはさらに免疫細胞の活動を抑制を抑える方法として、麻痺の治療薬としても用いられているボツリヌス毒素や、免疫細胞の活動抑制物質の効果を減弱させる物質がマウスで有用であったことも明らかにしている。

 

私たちを恐怖に陥れる人食いバクテリア。古くはヒポクラテスの著書にも、人食いバクテリアの脅威が記されているという。今回の発見により、長期にわたる人食いバクテリアとの戦いに変化が訪れるか。

今後の新規治療法の開発が期待される。

 

池田あやか

*Discovery認定コントリビューター

科学・アート好きの薬剤師。大学では主に超分子化学を専攻。科学の面白さを伝えようと、仕事の傍見て楽しい・触って楽しい科学イベントやサイエンスライターをしている。最近のお気に入りはモルフォ蝶の羽の構造色を利用したピアス。