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ミイラはエジプトの専売特許ではない!イタリアに残るミイラは、保存状態良好!?

イタリアは、ヨーロッパでは「ミイラ」大国である。

イタリア国内に残るミイラの数は、3000に及ぶ。そして、本家エジプトのミイラとの大きな相違は、イタリアのミイラはそれを意図した結果ではなかったという点だ。つまり、遺体が、自然に「ミイラ化」したのである。

気候条件が、遺体のミイラ化に適していただけではない。イタリアに残るミイラは、カプチン修道士会という宗派が大きな影響を与えている。

 

ローマにあるカプチン修道会の「骸骨寺」

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イタリアのローマのど真ん中に、日本のガイドブックでは「骸骨寺」として知られるサンタ・マリア・デッラ・コンチェツィオーネ教会がある。カプチン修道会に属するこの教会、日本語で知られる名前の通り、4000体に及ぶ骸骨がクリプタと呼ばれる聖堂にずらりと並んでいるのだ。その一角には、

「あなたがたはかつての我々の姿であり、我々は将来のあなたがたの姿である」

と記されている。

この4000体の遺体は、1528年から1870年のものとされている。これだけの数の骸骨が並ぶと、おどろおどろしいというよりも生死を超越した空気を感じる。

 

カプチン修道会のカタコンベ

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それでは、イタリア各地に残るミイラはどのような「自然現象」で生まれたのであろうか。

19世紀半ばから、衛生的な必要性からイタリアでは死者の埋葬を都市にある教会ではなく、城壁の外にある墓地で行うようになった。これ以後、土中の湿度の影響を受けて、イタリアではミイラが生まれることはまれになったといわれている。

カプチン修道会では、亡くなった修道士たちを教会内のクリプタに葬る習慣があった。暑さ寒さの影響を受けない地下に位置するクリプタは、遺体を腐敗させることなく乾燥させる作用をもたらした。

とくに、空気が乾燥しているといわれる南イタリアのシチリア島。州都パレルモのカプチン派の教会で、15世紀末に45体のミイラが発見された。いずれも、聖職者の遺体であった。髪の毛、ひげ、そして埋葬されたときの衣服までそのまま残っていたという。

この事実を発見したカプチン修道会では、埋葬からほぼ8か月でミイラ化する遺体の「利用」を考え付いた。ミイラとなった遺体は洗浄され、体中の毛穴は植物性の成分でふさがれる。そして服を着せられ、壁に架けられたり直立不動の姿勢を保たされたまま、飾られることになた。「カプチン修道会のカタコンベ」といわれる習慣は、こうして生まれたのである。

このように、ミイラを「見世物」とすることにどんな意味があるのであろうか。カプチン修道会の教えによると、世俗的な虚栄心や外観へのこだわりがいかに無駄であるかを人々に諭すためだという。

イタリアには、15世紀に生まれた「死の舞踏」と呼ばれる絵画のテーマがあった。骸骨(死)が、この世のすべてをつかさどるというこのテーマが、こうした風習の土壌にあったことは否めない。

 

カプチン修道会に残る美しい「幼女のミイラ」

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現在、「カプチン修道会のカタコンベ」として多くの旅行者が訪れるサンタ・マリア・デッラ・パーチェ教会には、世界的に有名な幼女のミイラがある。

1918年12月に生まれたロザリア・ロンバルドという名のこの幼女は、肺炎で1920年に死去。父親の強い希望で遺体に防腐処理が施され、カプチン修道会に葬られた。同修道会のクリプタに葬られた、最後の遺体の一体とされている。遺体の防腐処理を研究していた学者アルフレッド・サラフィアの完璧な手法は、近年まで謎のままであった。

しかし2009年の研究で、防腐処理は殺菌のためのホルマリン、水分除去のためのアルコール、極度の乾燥を防ぐためのグリセリン、菌類の繁殖を予防するサリチル酸、体を硬直させるための亜鉛を使用したことが判明した。

ロザリア・ロンバルドのなきがらは、歴史上非常に保存状態が良いミイラのひとつである。しかし、体の一部は腐敗が始まっていることが発見されたため、湿度と気温が安定しているガラスケースに遺体は移されている。

長いまつげ、官能的な唇、2歳に満たない幼女とは思えないほどの美しさは、訪れる人を虜にしているのだ。

 

 

イタリア各地に残る「聖人」ミイラ

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実は、シチリアにある「カプチン修道会のカタコンベ」だけで、実に2000体のミイラを所有しているのだという。後の1000体は、イタリア半島のカプチン修道会のミイラのほか、各地に残る「聖人」のそれである。聖人のミイラは、イタリア半島には100体ほど存在するといわれている。カトリック教会には、イエス・キリストや聖人の「聖遺物」をあがめる風習がある。聖人の亡骸は、その聖遺物の最たるものであろう。いずれも、民衆の「地元の聖人」への熱い思いによって、大事に保管されている。

 

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007

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