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食卓を囲む13人のドラマ 宗教画『最後の晩餐』のさまざまなルールとは

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『最後の晩餐』。

イエスと12人の弟子たちが、イエスが処刑される前夜に共にした食卓の風景を描いている。このテーマは、13世紀に登場して以降、14世紀から15世紀にかけて大ブームとなった。

レオナルドの『最後の晩餐』ばかりが有名だが、実際には膨大な数の『最後の晩餐』が存在する。この宗教画のテーマには、描く際にいくつかののルールがあったといわれている。このルールを、いかにも天才らしく破ったのがレオナルド・ダ・ヴィンチであった。

美男の聖ヨハネは、イエスに甘える構図

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ダン・ブラウンの小説『ダ・ヴィンチ・コード』では、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『最後の晩餐』の中で、イエスの隣に座っているのは聖ヨハネではなくマグダラのマリアであったという展開になっている。

「イエスがことのほか愛した弟子」として知られる聖ヨハネは、キリストの磔刑の場面にも、聖母ヨハネとともによく描かれている。そして、必ず若い美男である。

『最後の晩餐』では、中世的な美男の聖ヨハネが、イエスに身を投げ出すように描かれるというルールがあった。イエスに寄り添っていたり、イエスの腕の中に身を投げ出したりするヨハネの姿は、整然と並んだ弟子たちの中では突出した存在感がある。

そして、レオナルドの描いた『最後の晩餐』では、そのルールを破って聖ヨハネはイエスと反対側に身を寄せている。そのため、イエス・キリストの両際がすっきりと空き、イエスの存在が際立つことになった。人間的な豊かな表情を見せる12人の弟子たちの中心で、超越した存在のイエスが強調され、レオナルドの技巧がさえわたっている。

 

宗派によって異なる?裏切り者「ユダ」の扱い

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イエス・キリストを、銀貨30枚で売ったといわれる裏切り者「ユダ」。

ある意味、12使徒たちの中でも主役級の知名度を誇るユダは、神学的にも非常に扱いが難しい存在といわれてきた。

最も一般的な『最後の晩餐』では、ユダは銀貨の入った袋を手に持ち、ほかの12人とは独立してぽつんと描かれている。いかにも、鑑賞者を挑発するかのように一人だけこちらに視線を向けている「ユダ」もある。そして、イエスと他の弟子たちには、聖人であることを示す光輪が頭上に描かれているが、ユダの頭上にはそれがないことが多かった。

ユダの頭上に、ほかの12に人と同様に光輪を乗せ、清濁併せ呑む『最後の晩餐』を描いたのは、ベアート・アンジェリコであった。

レオナルド・ダ・ヴィンチもユダを他と隔てては描かず、マグダラのマリア、聖ペトロの横に、部屋から飛び出すために立ち上がるような躍動感で描いた。しかし、レオナルドが描いたユダは、他の13人の中に溶け込んだ存在でしかない。レオナルドは、イエスと弟子たちの頭上に光輪も描かず、あくまで人間のドラマとしてこの作品を描いた。

ベアート・アンジェリコは、ドミニコ派の修道士であった。また、レオナルドが『最後の晩餐』を描いたミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会も、ドミニコ派に属している。当時のドミニコ派は、人間の自由な意思を非常に尊重する傾向にあった。人間は、善と悪のあいだで、揺れ動き選択をして生きていくことを認めていた。これが、ユダの扱いがドミニコ派の中で独特であった理由ともいわれている。

 

男子と女子の修道会では、『最後の晩餐』のメニューにも相違が!

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歴史学者フェデリコ・カナッチーニによれば、修道会内に描かれた『最後の晩餐』のメニューには、男子と女子のあいだで相違があるという。

『最後の晩餐』が描かれることが多かった修道院内の食堂は、世俗を離れた修道士たちにとっては世間とのコンタクトをとる場所でもあった。そのため、当時の世俗の世界の美味も作品内に描かれている。レオナルド・ダ・ヴィンチの作品に描かれていたのは、ウナギ料理であった。しかし、この傾向も男子の修道会に限られるのだという。

男子の修道会では、『最後の晩餐』は修道士間の「兄弟愛」のシンボルであったので対し、女子修道会においては世間から「隔離」された自身と向き合うために、使徒の一人一人を見つめるための対象であった。

そのため、女子修道会に描かれた『最後の晩餐』は、男子の修道会に比べるとつつましく質素なメニューが並ぶ。フィレンツェにあったサンタポッローニア女子修道会やサントノフリオ修道会に残る『最後の晩餐』には、当時の贅沢とされた肉料理は一切描かれていない。

 

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007

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