9月26日はヨーロッパ言語の日…言語と文化、その多様性のはざまにあるもの

9月26日は、「ヨーロッパ言語の日」である。

欧州評議会とEUが、共同で「ヨーロッパ言語の年」とした2001年の終わりに、改めて毎年9月26日を「言語の日」とすることを定めたものである。

225の言語が存在するといわれるヨーロッパにおいて、母国語以外の言語を学ぶことはすなわち、他者を知り理解するという行為につながる。EUでは、母国語以外の言語の習得のプロモーションのために、毎年3000万ユーロ以上を計上している。

 

「標準語」を話す割合が低いヨーロッパ

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イタリアの国立統計研究所(ISTAT)が2006年に調査した結果は、このようになっている。

イタリア語を日常的に母国語としているのは、10歳以下で68パーセント、75歳以上ともなると28パーセント。平均では、45,5パーセント。

2011年に、国家統一150周年を迎えたイタリアだが、統一当時はイタリア語を話す国民の割合がわずか5%であったという。都市国家の時代が長かったイタリア半島では、それぞれの地域の独特の言い回し、文法、単語などが存在する。トスカーナ出身のレオナルド・ダ・ヴィンチは、ミラノに転居した当時、ミラノの方言に苦労したらしい。彼の手稿には、ミラノ方言についてのメモが残る。

住むローマから30キロほどの小さな町にも独特の方言が存在し、生粋のローマ育ちのイタリア人には理解できないこともある。テレビやラジオのジャーナリストは、標準的なイタリア語を話していても、その独特のイントネーションでお国が知れるのである。

かように、ヨーロッパでは標準語以外の言語が幅を利かせているのだ。

 

同じ言語で話すことで生まれる結束

トリノ大学の言語学者マッシモ・チェルッティは一方で、方言のみを使用する人の割合は減少傾向にあると語っている。つまり、家族間では方言を話しても、社会に出れば標準語を話す人が増えたのである。年齢や性別によっても、方言を話す状況は変化する。高齢者、独身の男性は方言を日常的に使う傾向にあるのに対し、若年層や女性は標準語を使用することが多い。

とはいえ、女性も若者もサッカーの試合ともなれば地元の言葉で応援し、クリスマスや復活祭の時期に幼馴染たちと集えば、わざと方言を使用する。方言はつまり、結束力を促進する作用があり、意識的に使用する人が増えたのかもしれない。

そして、自分が住む土地以外の方言を揶揄の対象とすることも多い。テレビやインターネットの普及が生んだこうした「お笑い」も、相手を知ればこそ生まれたものだ。「揶揄」ではあるが、「侮辱」ではない。このあたりの微妙なバランスも、常に言語を異にする人々と交流をしてきた文化が生み出したもののような気がしてならない。「揶揄」される側も、それを受け取ることに慣れていれば、摩擦など生まれないのではないだろうか。多言語の習得を推奨するEUも、文化や言語の多様性を学ぶため、とはしているが、「友好的に」という文字がないところがいかにもヨーロッパらしい。

 

刹那的で劇的な中世のライフスタイルが生み出すもの

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歴史家ヨハン・ホイジンガは、その代表作『中世の秋』の冒頭で、このように書いている。

 

「すべてが、多彩なかたちをとり、たえまない対照をみせて、ひとの心にのしかかる。それゆえに、日常生活はちくちくさすような情熱の暗示に満たされ、心の動きは、あるいは野放図な喜び、むごい残忍さ、また静かな心のなごみへと移り変わる。このような不安定な気分のうちに、中世都市の生活はゆれうごいていたのである」。

 

ホイジンガは、彼の時代より5世紀ほど若い中世を表現するためにこのような著述をしているが、これは現代のヨーロッパにも当てはまるのではないだろうか。日本のように婉曲表現を用いず、直接的に相手に伝える。もちろん、それによって人と人のあいだには感情の火花が散る。それが日常化し、感情の動き=過激な行動には直結しない。もちろん、それぞれの民族がもつ特徴というのは無視できないのだが、日本のように社会のシステムが十全とは言えないヨーロッパ諸国では、人間のあいだの感情のコントロールが社会の中で重要な要素として存在するのではないだろうか。言語も文化も異にする人のあいだにも、大人の「阿吽の呼吸」が存在するような気がする。

ちなみに、2017年にドイツのアーヘン工科大学が発表したところによると、方言と標準語を話す人は、バイリンガルの人と同様の脳の発達がみられることが明らかになっている。

あらゆる面において、EUが多言語の習得に熱心であるのには、理由があるのである。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007