一言で「ピッツァ」と語るなかれ ナポリ対ローマ、ピッツァで競い合うふたつの都市

世界中に知られるイタリア料理の美味。

その主軸をなす「パスタ」と「ピッツァ」は、世界中に普及し、各々の地に適したメニューが次々に生まれている。

イタリア本国の「ピッツァ」もしかし、郷土色が濃厚でそれぞれの土地の名前が形容詞として用いられる。「ナポリのピッツァ」「ローマのピッツァ」「ジェノヴァのピッツァ」といった具合に。つまり、一言で「ピッツァ」と片付けてもらいたくない事情が、それぞれの都市に存在するのである。

 

「ナポリのピッツァ」、ユネスコの文化遺産認定に心穏やかならぬ人々

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2017年、「ナポリのピッツァ職人の技術と伝統」が、ユネスコの文化遺産に認定された。2009年から、ナポリのピッツァ職人をはじめ農業食料森林省や専業農家連盟も協力し合い、200万人の署名まで集めて執念で勝ち取った「認定」である。

これに穏やかではないのが、イタリア各地に存在する「おらが町」の郷土料理関係者たちだ。ナポリのピッツァに続けとばかり、アマトリーチェのパスタ料理「アマトリチャーナ」、ヴェネト州のスパークリングワイン「プロセッコ」、フィレンツェのステーキ「ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナ」までが、ユネスコの文化遺産認定に名乗りを上げた。

イタリアのピッツァが認められるならばこちらも、というわけでフランスでは「バゲット」も文化遺産認定に乗り気になっている。

 

しかし、ナポリのピッツァの文化遺産認定に、もっとも瞋恚を燃やしているのは、地理的にも近いローマのピッツァ関係者である。つい先日、ナポリに対抗してローマのピッツァを盛り上げようと、「ピッツァ・ロマーナ・デー」というイベントまで開催された。

 

本家は「ナポリ」、発祥は?

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そもそも、イタリア人が「イタリア」という名のもとに一致団結するのはサッカーのワールドカップの試合があるときくらいで、普段はそれぞれの都市のアイデンティティが非常に重視されているイタリア。

イタリアの「ピッツァ」の中でも、特にナポリとローマにはブリリラントな技術を有する職人が集結しているといわれている。とはいえ、「ナポリ風」と「ローマ風」にはかなりの相違が存在する。

具体的には、このように違う。

ナポリのピッツァは柔らかい食感が特徴だが、ローマのピッツァはカリッとしている。

ナポリのピッツァの生地は水、小麦粉、酵母、塩のみだが、ローマの生地にはオリーブオイルが加えられる。

それぞれの食感の特徴を生かすために、ナポリのピッツァは手で引き伸ばされるが、ローマのピッツァはのし棒で薄くする。

石窯での調理時間は、ナポリのピッツァのほうが長い。調理時間の相違も、柔らかさとカリッとした食感を生み出すための理由となっている。

 

とはいえ、イタリア人の常識では、ピッツァが生まれたのは「ナポリ」であることで一致していた。ところが数年前、「ピッツァ(正式には複数形のピッツェ)」という言葉が登場する最も古い古文書は、ナポリではなくラツィオ州のガエタという町に残ることが明らかになった。997年に、ガエタの農民たちが領主に納めたクリスマスの貢物のひとつが、「12枚のピッツァ」であったのだ。当時のピッツァは、推測では現代の「フォッカッチャ」のようなものであったといわれている。ちょうど、ラテン語から派生した「イタリア語」が成立する時期と重なるこの古文書は、「ピッツァ」といういかにもイタリア語らしい響きとともに言語学の分野でも注目されている。

 

ストリートフードの王道として

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発祥がどこであろうが、ピッツァとナポリは切っても切れない関係にある。作家アレクサンドル・デュマをはじめとする著名人たちによって、ナポリのピッツァの光景が著述として残るせいもあるだろう。

実際の起源は古代ギリシアにあるともいわれるピッツァは、塩辛いものとも甘いものとも相性がよく、庶民の食べ物の定番であった。ナポリの王宮やローマ法王庁でもピッツァが料理された記録が残るが、文字通りストリートフードの王道でありナポリの路上で庶民が日々食していたのがピッツァであった。現代の定番「トマト」が具材として普及し始めるのは、17世紀の終わりごろである。

また、ピッツァを「テーブル」で食べるようになるのは20世紀に入ってからのことである。現代のイタリア人が小腹が空いたときに切り売りのピッツァを立ち食いするのも、伝統にかなっているというわけだ。

記録によると、18世紀のナポリでは窯から出て時間がたった冷めたピッツァは値段下げて販売されていたという。なにからなにまで、庶民の味方であるのがピッツァなのである。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007