タコにドラッグを与えたら妙に社交的に?…ちょっと変わった米研究

タコは、本来孤高な生物だ。一生のほとんどを単身で過ごし、仲間と群れることはない。唯一社交性を発揮するのは繁殖期のみだそうだ。

一方で、多幸は、MDMA(別名エクスタシー)という幻覚剤がもたらす作用のひとつ。MDMAは脳内でセロトニンの過剰放出を促し、多幸感や他者との共感を強めるはたらきがある。MDMAを摂取した人間は、一般的に社交性を強める傾向にあるそうだ。

では、タコと多幸を合わせたらどうなるか?ある科学者たちの奇想天外な実験により、その答えが明らかになった。タコにMDMAを摂取させると、通常よりもずっと社交的にふるまうことがわかったという。

 

行動は分子に組み込まれている?

ちょっと冗談めいた研究だと思いきや、よくよく考えるとこれはスゴイことだ。

Live Scienceによると、タコと人間は5億年前に進化の道筋を決別している。その5億年の間にそれぞれがたどった道はどんどん両者を遠ざけ、いまや足の数も、脳のつくりも、まるで異なる生物になった。それなのに、タコと人間は現在に至るまで同じ遺伝子を持ち続けていて、その遺伝子のはたらきにより同じようにMDMAに反応し、同じような行動をとる。

それは、Gizmodoによれば、生物の社会性、群行動、繁殖行動…そういったものが、脳のつくりに関係なく、すべて遺伝子にコード化されている分子自体に組み込まれている可能性を示唆しているそうだ。

 

Credit: edmondlafoto / Pixabay

 

セロトニンの伝達に関係する遺伝子の存在

そもそも、無脊椎動物のなかでも、タコの知能と行動の複雑さはトップレベルだ。比較的シンプルな脳のつくりににもかかわらず、高度な知能を発揮できるのはなぜなのか。

この点に着目したアメリカの科学者二人が、カリフォルニア・ツースポットタコ(Octopus bimaculoides)のゲノムを調べてみたところ、SLC6A4というセロトニントランスポーター遺伝子が含まれていることがわかった。

セロトニンは共感性を高め、社交的な行動を促す神経伝達物質。そしてセロトニントランスポーター遺伝子は、セロトニンを伝達するために不可欠だ。普段は単独行動を好むはずのタコが、なぜこの遺伝子を?

次に科学者たちは、タコにMDMAを与えて反応を見てみた。

こちらがカリフォルニア・ツースポットタコ Credit: Tom Kleindinst via Cell

 

いざ、タコに幻覚剤を投与

科学者たちは、まず妊娠中のカリフォルニア・ツースポットタコをロサンゼルス市内で調達し、やがて産まれてきた赤ちゃんタコをそれぞれ隔離して育てた。そのうち7匹の兄弟・姉妹タコを実験に導入。三つの部屋に仕切った海水タンクのなかに一匹ずつ放流し、どのような行動を取るか観察した。

三つの部屋のうち、中央にはなにも入れず、左端にはチューバッカのアクションフィギュアなどを入れた「モノの部屋」、そして右端には透明のケージに閉じこめられたタコがいる「タコの部屋」が作られた。

通常の場合、タコたちは圧倒的に「タコの部屋」を避けた。ケージ内にいるタコがオスだった場合は、なぜかメスよりもさらに敬遠されたそうだ。

ところが、MDMAを混ぜた海水に泳がせて、充分に幻覚剤の効果が上がってきた頃に放流した場合、タコたちが「タコの部屋」で過ごす時間が長くなった。たとえケージ内のタコがオスであっても、積極的に近寄ったり、足を延ばして触れ合おうとするような行為まで見られたそうだ。

これは科学者たちが予測したとおり、タコたちが吸収したMDMAが脳内セロトニンを過剰放出し、通常よりフレンドリーな行動を促したと考えられる。

 

Credit: Masaaki Komori / Unsplash

 

セロトニントランスポーター遺伝子を持っていながら、なぜ普段は抑制されているのか?群れずに「一匹タコ」でいるメリットは?――まだまだ解明されていない疑問は多いが、この研究を皮切りに、一気にタコとドラッグを使った研究が日の目を見ることになりそうだ。

なお、実験に使われたタコたちが、その後MDMAから更生できたかどうかは定かでない。

 

山田 ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/