壁一面に広がる野生生物の群。洞窟壁画として有名な世界遺産フランス ラスコー洞窟の壁画が描かれた更に5万年以上前に作られたとされる、赤色ハッシュタグ模様を有する石が南アフリカ共和国で発見された。

この石は壁画の一部であると推定されており、これまでホモ・サピエンスによる最古の壁画とされてきた、アフリカ、ヨーロッパ、東南アジアで発見されている抽象的描画や図形的描画を少なくとも3万年さかのぼる、世界最古の描画作品なのだ。
いかにして発見されたのか?
石は南アフリカ共和国ケープタウンの東方の南海岸沿いにあるブロンボス洞窟で発見された。この洞窟では10万~7万年前に初期人類が作成したとされる、貝殻ビーズ、彫り込みのある黄土土器の破片、槍の先端、オーカーという鉱物を用いた顔料を入れた貝殻が発掘されており、以前から初期人類の創造性が示唆されてきた。
今回、Christopher Henshilwoodらの研究グループは、研削されて表面が滑らかになった幅約4cmのシルクリート(砂や砂利が固まりできた鉱物)薄片をこの洞窟で発見した。その薄片には6本の線と3本の線による斜交平行模様、ハッシュタグが、オーカーを用いた赤色顔料で意図的に描かれていたのだ。
薄片に描かれた線は、端で途切れており、もっと大きな薄片上に描かれた模様の一部であったこと、もっと複雑なものであった可能性が示唆されている。
世界最古のアート誕生の地は南アフリカ?
世界最古のアーティストである我々の祖先ホモ・サピエンスは南アフリカで誕生し、ハッシュタグという幾何学模様を描いた。では本当に、アート誕生の地は南アフリカなのだろうか?
実は今年2月にPike及びPettitt らのチームは、スペイン北部の世界遺産ラパシエガ洞窟など3カ所の洞窟でネアンデルタール人が6万5000年以上前に描いた壁画を発見している。

今回の発見により、南アフリカとスペインの異なる地で、異なる人種により、ほぼ同時期にアートが誕生したかのようにも思われる。
カナダビクトリア大学の考古学者April Nowellは、2つの人種がほぼ同時期に描画を始めるのは稀なことではあり、今後の研究により年代差が変化する可能性があると述べている。
世界最古のアートを巡る旅はまだまだこれからも続きそうだ。
池田あやか
*Discovery認定コントリビューター
科学・アート好きの薬剤師。大学では主に超分子化学を専攻。科学の面白さを伝えようと、仕事の傍見て楽しい・触って楽しい科学イベントやサイエンスライターをしている。最近のお気に入りはモルフォ蝶の羽の構造色を利用したピアス。