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未来の食糧難を救えるか?ネバネバな粘液を出すトウモロコシは肥料いらず

メキシコ南部の奥地で、不思議な植物が研究者の目を引いたのは40年前だった。

オアハカに近いシエラ・ミヘー(Sierra Mixe)の山間部で発見されたトウモロコシの原種は、やせた土地に生えていたものの、通常栽培されているトウモロコシの倍の背丈にも成長していた。

赤身がかった「気根」と呼ばれる空気中に露出した根をたくさん生やすので、地元民からは「rojo(赤)」などと呼ばれるそうだ。そして奇妙なことに、決まった季節になると、それらの気根は透きとおったジェルのような粘液をしたたらせる。

Credit: Van Deynze, et al. via PLOS One

 

長い年月を経た研究の結果、「rojo」はこの粘液に共生微生物を住まわせて空気中の窒素を窒素化合物に変換させる「窒素固定」を行い、成長に必要な窒素の29%~82%を確保していることがわかった。

もしも世界中のトウモロコシを同じように窒素固定を行えるように改良できたなら、窒素肥料にかかる膨大なコスト削減につながるほか、持続可能な農業を実現する大きな一歩となる。

わたしたちの未来の食卓につながる、重大な発見だ。

Credit: 12019 / Pixabay

 

窒素固定とは

窒素は植物になくてはならないもの。光合成を行う葉緑素を作るために不可欠な元素だ。しかし、空気の約78%は窒素なのにもかかわらず、植物が空気中から直接取り入れることはできない。なぜなら、Live Scienceによれば、空気中の窒素はふたつの原子がガッチリと結合されている状態のため、その結合を切断するには多くのエネルギーを必要とするからだ。

マメ科の植物は、根に小さなこぶの部屋を作って微生物を住まわせる代わりに、空気中の窒素分子をアンモニアなどの窒素化合物に変換してもらっているので、自ら窒素を調達できる。

稲作に先立ち、春の田んぼにレンゲの花が咲き乱れるのはこの窒素固定を狙ったものだ。レンゲによって空気中から取り出された窒素は、レンゲの葉や茎に蓄積され、やがて土に還って土壌を豊かにする。

Credit: DeltaWorks / Pixabay

 

レンゲのみならず、すべての植物が朽ちて土に還る時、その葉に蓄えられていた窒素も土に還る。元来、地産地消されていた農作物は、収穫後に食用としない茎や根が土に還ることで窒素も補充されていた。

ところが、農作物の大量生産と大量輸送の時代になると、循環していた窒素に乱れが生じるようになってきた。必要な窒素が土に戻されない分、人は化学肥料を開発し、大量に使ってきた。

 

化学肥料による汚染

世界で生産されている三大主要穀物といえば、麦、米、そしてトウモロコシ。国際連合食糧農業機関によれば、年間で9億トン超収穫されたトウモロコシのうち、約41%にあたる3.8億トンはアメリカ国内で育てられた(2016年のデータによる)。

トウモロコシはレンゲのように窒素固定できない。しかも、トウモロコシはほかの作物に比べてより多くの化学肥料を必要とするそうで、カリフォルニア大学による推計によれば、アメリカ国内だけでもトウモロコシを栽培するために使われる窒素肥料は年間560万トンに及ぶという。

世界的に見てみると、膨大な量の化学肥料が必要とされており、その生産コストも膨大だ。そして、化学肥料を生産する過程で放出される地球温暖化ガスの量もままならない。

さらに問題なのは、窒素肥料の過度な散布だ。作物が使い切れるジャストな量を見極めるのは難しく、多くの場合、植物が使える以上の量の窒素肥料が世界中の畑にばらまかれている。

余剰の窒素は川に入り、海に流れ着き、藻類の爆発的な繁殖につながる。そこまではいいのだが、やがてそれらの大量の藻が死した時、分解作業を担う細菌までが異常繁殖して水中の酸素を吸いつくしてしまうため、ほかの海洋生物が生きていけない魔の「デッドゾーン」ができてしまうという。

 

持続可能な農業をめざして

冒頭のトウモロコシの原種「rojo」に話を戻そう。

「Rojo」が気根から出しているネバネバの粘液は、窒素を固定してくれる嫌気性細菌が住むのに理想的な環境のようだ。酸素濃度が極端に低いのに加え、細菌のエサとなる炭水化物もある。

研究者たちがメキシコの原産地からアメリカのウィスコンシン大学に持ち帰って栽培した結果、見事粘液を出すトウモロコシを育てることに成功したそうだ。

ゆくゆくはこの粘液を出す遺伝子を特定し、栽培種のトウモロコシに移植すれば、トウモロコシ畑に窒素肥料をばらまく必要もなくなるのではないか――。そんな期待を胸に、ウィスコンシン大学、カリフォルニア大学デービス校とマース・インコーポレイテッドが共同で粘り強い努力を続けているが、結果が出るのはまだ何十年も先のことになるそうだ。

 

山田ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/

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