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ハレー彗星は災いをもたらすのか…流れ星にまつわる奇妙な歴史

8月、ヨーロッパ中はバカンスとなる。そのため、普段は都市に暮らしている人も、海や山など自然に恵まれた地に長期滞在していることが多い。欧州の学校の夏休みは6月から3か月にも及ぶ長いものだから、子供たちもサマータイムの影響もあってすっかり夜型の生活となる。

普段は街の明かりの中で暮らしている人々も、8月にペルセウス座流星群が近づくと海用のデッキチェアに寝転んで流れ星を眺めて夜更かしをすることが多いのだ。

 

天の川は母乳のほとばしり?

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ペルセウス座流星群と同様、夏によく見える「天の川」。

日本語の「天の川」は、英語では「ミルキィ・ウェイ(Milky Way)」と呼ぶ。訳語としてはまったく関連性がないから、なぜ天の川が「ミルクの道」と呼ばれるのか不思議に思う方も少なくないだろう。

帯状に見える美しい恒星の集まり「天の川」には、楽しいギリシア神話の逸話がある。

主役は、ギリシア神話の英雄ヘラクレスである。ヘラクレスの父は、全能の神といわれるゼウスであるが、母はゼウスの正妻ヘラではない。ヘラは、承知のごとく非常に嫉妬深い妻であった。ゼウスは、妻以外との間にできたヘラクレスに不死の命を与えるために、妻ヘラの母乳を飲ませようとする。ヘラクレスの母は神ではなく人間であったため、ヘラクレスは半神である。半神が不朽の命を得るためには、女神の乳を飲む必要があった。

嫉妬深い妻ヘラが寝込んでいるすきに、ゼウスはヘラクレスにヘラの母乳を飲ませる。赤子のころから力が強かったヘラクレス、あまりに強くヘラの乳房に吸い付いたためヘラは覚醒し、おもわずヘラクレスを引き離した。その時に、ヘラの母乳が天にまき散らされた。これが、天の川となったのだという。「ミルキィ・ウェイ」と呼ばれるゆえんである。

 

イエス・キリストが生まれた夜に見えた流れ星

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一方、流れ星は「イエスの降誕」のシーンによく描かれる。イエスの誕生を祝うためにベツレヘムに向かった東方三博士を導いたのが、流れ星であったという伝説があるからだ。

実は、イエスの誕生したときに星が現れたと明記しているのは、新約聖書の「マタイによる福音書」のみである。

イエスの降誕の折の流れ星については、歴史学者や聖書学者の間で論争の的になってきた。歴史学者によっては、「ベツレヘムの星」は聖書解釈学の分野にゆだねるべき事象だと主張している。一方で、木星、土星、火星の三重合であったと主張する天文学者もいる。

 

ハレー彗星は災いをもたらすのか

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17世紀から18世紀に活躍したイギリスの天文学者エドモンド・ハレーによって、その存在が確認されたハレー彗星は、76年ごとに現れる。

このハレー彗星の出現が、さまざまな災害や不運と関連しているという噂は絶えなかった。例えば、1066年のハレー彗星出現のさいにはイギリス王ハロルド二世が敗北したとか、1910年に英国王エドワード七世に病に倒れた折も、ハレー彗星の出現がまことしやかにささやかれたものである。

しかし、ハレー彗星と疫病の関連性を科学的に研究しようという科学者も存在する。

コロンビア大学の研究者ダラス・アボットは、541年から542年に地中海世界を襲ったペストとハレー彗星の関連を研究している。当時、ビザンチン帝国をはじめ地中海の都市では、毎日五千人が疫病によって死亡したという。歴史上、「ユスティニアヌスのペスト」と呼ばれている現象である。

アボット教授はこの現象を、530年のハレー彗星と関連付けている。530年のハレー彗星の断片が大気中で粉砕され、宇宙塵によって地球上の温度が平均3度ほど下がったのではないかというのがアボット教授の説である。その結果、飢饉と人類の免疫力低下を誘発し、歴史的なペストの流行となったというわけだ。

この説を裏付けるために、アボット教授はグリーンランドの氷を分析した。それによると、6世紀の層に相当する氷には、少なくとも7年にわたって地球外起源の粉塵を含む割合が高いことが証明されたのだ。

人々が、天空の現象に不吉な思いを抱いたり、逆に幸運の予兆を見出したりすることは人間の性として自然なことである。しかし、科学の分野からもこうした歩み寄りをする愉しい研究も興味深い。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007

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