Credit : Mattheau Comerford / Rice University

アメリカで確認された食虫植物は、茎を延ばして昆虫を狩る「ハンター型」

広葉樹の葉の裏側にふたつ並んだこのつややかなこぶは、一種のがん細胞と言えるかもしれない。

こぶを作った犯人はタマバチと呼ばれる小さな寄生虫だ。タマバチは、ブナ科コナラ属のオークの木が芽吹く頃、まだ若い葉の葉脈に卵を産みつける。そして産卵とともに毒性のある物質やタンパク質を葉の細胞内に注入して、固い丸いこぶを作らせる。孵化した幼虫はこぶの中でオークの養分を奪って成長し、やがて成虫となって外へ出てくる。

茶色く膨れ上がった虫こぶは、色も材質も本来のオークの葉とは似ても似つかない。だが、DNAは正常な細胞のものとなんら変わりはないそうだ。こぶの部分の細胞だけがタマバチに再プログラム化され、オークにとっては有害な発達を遂げる。この点はがん腫瘍によく似ていると、ライス大学の進化生物化学者、スコット・イーガン教授は指摘している。

Credit: S. Egan / Rice University

一方で、こちらのもつれた網のような、およそ植物らしくないスナヅル(Cassytha filiformis)は、温暖な気候を好むつる性の寄生植物。実は媚薬とされ、英語では俗に「love vine」とも呼ばれる。

このスナヅルには葉らしき葉もなく、葉緑素こそ全体に含んではいるものの、あまり効率的に光合成を行えるとも思えない形状に進化している。

では、スナヅルは何をエネルギー源としているのだろうか。

Credit: Mattheau Comerford / Rice University

答えは、タマバチの幼虫だ。

スナヅルは虫こぶを見つけると近寄ってきて茎を密着させ、吸盤のようなもの(上の画像)でこぶの表面に穴を開け、中に茎を延ばして幼虫の養分を吸いとっているという衝撃の事実が、最近の研究でわかった。

イーガン教授らが2017年秋に採取した虫こぶを調べたところ、スナヅルが密着していた虫こぶ51個から、養分を吸い取られてミイラ化したタマバチの成虫が22体発見された。それに対し、スナヅルに狙われなかった虫こぶ101個からは、タマバチの死骸が2体しか確認されなかった。

オークの木に寄生する生物同士の、狩るものと狩られるものの関係性。タマバチが研究され始めて100余年経つそうだが、今まで誰も気づかなかったそうだ。そしてこの世紀の大発見はイーガン教授本人ではなく、彼の教え子によるものだった。

Credit: S. Egan / Rice University

S字型にくねったスナヅルの茎がタマバチの虫こぶに巻きついている様子を最初に発見し、疑問視したのは、イーガン教授の研究室に所属していた大学院生のリンイ・チャン(Linyi Zhang)氏(写真右)だった。しかし、チャン氏が発見を報告するも、教授はあまりに突飛すぎてすぐには取り合ってくれなかったという。

果たして、スナヅルが巻きついた虫こぶの中にはミイラ化したタマバチが入っていることがわかり、事態は大きく動き始めた。研究結果は権威ある学術誌『Current Biology』にも掲載され、寄生生物同士の関係性を再定義する歴史的大発見となった。

この発見はまだ序の口で、世界で1,300種ほど確認されているタマバチ科の昆虫と、4,000種におよぶ寄生植物の関係も検証していけばまだまだ新しい発見があるかもしれないと、イーガン教授は大学の広報記事で語っている。また、スナヅルがどのように獲物を探しているのかを知ることができれば、がん細胞を検知する技術に応用できるかもしれないとも。

最後にもうひとつ、恐ろしい事実がある。スナヅルが標的にした虫こぶは、標準より大きいものばかりだったという。これは、スナヅルが大きな虫こぶだけを選び抜いて攻撃したか、あるいは狙ったこぶの栄養価をさらに高めるために、なんらかの方法で成長を促したとみられるそうだ。

大きな獲物に狙いを定めて襲うスナヅルは、立派なハンターだと言えないだろうか。植物のイメージすらくつがえす、恐ろしくも興味深い寄生植物の素顔だ。

 

山田ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/

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