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海水を使った料理、その起源は古代にあり…アレクサンダー大王から現代の著名シェフまで虜に

スペイン、スコットランド、イタリアで販売され、著名な料理人たちのあいだでも料理に使用される「海水」。

ミネラルをふんだんに含んでいるうえ、使用する塩分が控えめになることから大人気となっている。もちろん、汚染が問題となっている海の水をシロウトがそのまま料理に使うのは危険である。欧州で海水を販売する企業は、独自の技術でミネラルを損なわないようろ過しているのだ。

 

神話と伝説の世界の「海水」

伝説によれば、アレクサンダー大王は彼の料理人とともに「命の水」を探したことがあるという。ある日、二人が塩漬けの魚を海水で洗うと、その魚が生き返った。アレクサンダー大王は、海の水こそが「命の源」であると得心したという。

また、ギリシア神話においては「淡水」が女性を、「海水」は男性を表すという説もある。波によって泡立つ海水が、精液を彷彿とさせるためなのだとか。

紀元前5世紀のギリシアの悲劇詩人エウリピデスは「海の水は万能薬」と記している。エウリピデスによれば、エジプトの医師たちも病の治療のために海水を用いていたとある。

実際、近代の医学によれば、食塩として販売される塩化ナトリウムには含まれていないミネラルが、海水には90種以上も存在することが確認されている。

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船の上の飲み水確保から生まれた「海水文化」

湯せんでじっくりと過熱する料理法を、フランス語で「バン・マリィ(Bain Marie)」とよぶ。その名から、料理法の発明者には旧約聖書の英雄モーセの姉妹のミリアムや、ユダヤの伝説的な錬金術師マリアなどの説がある。

事実はというと、非常に実践的な船の上の調理法から生まれたというから面白い。つまり、船の上で貴重な飲み水となる「真水」を節約するために、海水で湯せんしたのが始まりという説が一般的となっている。ラテン語の、「Balenum Maris(海水浴)」から由来したというわけだ。

また、船上で魚介類を洗浄する際にも、真水を使わずに海水を使ったところ、料理がよりおいしくなったという言い伝えもある。これが、イタリア料理の「アックアパッツァ」の起源である。

いずれも、飲み水を確保するための船員たちの必死な知恵が生んだ料理法であったが、通常の調理よりも美味になるという一石二鳥となった例といえる。

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イタリア南部に残る「海水」のレシピ

イタリア南部のソレントやナポリには、海水で捏ねた小麦粉を使用したパンやビスケットのレシピが残る。この地方では、まだ水売りが存在していた時代、「淡水」と「海水」双方が売られていたという。そして、より安価であった「海水」を使用したレシピが生まれたのである。

数世紀前、海の汚染は現代ほど深刻ではなかった。また、衛生という概念も存在していなかった。

昨今ブームとなっている「海水」を使用する料理は、もちろん衛生的に問題のないものを用いる必要がある。

 

海塩よりもミネラル豊富な海水

海水には、メンデレーエフの92元素が(少量ながら)すべて揃っているといわれ、海塩よりもミネラルが豊富、とは専門家たちの一致した意見である。

海水販売で有名なのはスペイン。販売される海水は、ポテトチップやピッツァの製造のほか、なんとジュースにまで使用されている。イワシが生息することで有名なビスケー湾の海水を販売する企業もある。

スコットランドやイタリアにも、特許を取得して独自の技術で海水をろ過し販売している企業が多い。

近年の健康ブームで、こうした企業は笑いが止まらないといったところのようだ。

 

Sachiko Izawa

*Discovery認定コントリビューター

イタリア在住ライター。執筆分野は、アート、歴史、食文化、サイエンスなどなど。装丁が気に入った本は、とりあえず手に入れないと気持ちが落ち着かない書籍マニア。最近のひとめぼれは、『ルーカ・パチョーリの算数ゲーム』。@cucciola1007

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