ゾンビのように蘇った遺伝子によりゾウは癌を免れている

生涯がんで死亡する確率は、男性25%(4人に1人)、女性16%(6人に1人)といわれているのに対し、ゾウが生涯癌で死亡する確率は人の1/4~1/5程度の5%にも満たないという。

そもそも癌は細胞増殖時の遺伝子コピーエラーによって生じると言われており、細胞数の多い大型動物ほどがん化の確率は高くなるはずである。実際に、アフリカゾウは6000kgと成人の約100倍も大きく、理論的にはゾウは人より癌になりやすいはずである。

ではなぜゾウはがんになりにくいのだろうか。

その鍵を握るのはp53遺伝子とゾンビのように蘇った遺伝子LIF6であった。

 

 

生物には癌抑制遺伝子と呼ばれる細胞増殖時のエラーを検出し、不適切な細胞の死滅(アポトーシス)を誘導させる遺伝子が存在している。その代表格であるp53遺伝子を人間は1コピーしか持たないも関わらず、ゾウは類縁を20コピーもつことが知られていた。

DNAが損傷されると、p53遺伝子は活性化し、p53というタンパク質を作り出す。今回発見された遺伝子LIF6はDNA損傷により誘導出されたp53タンパク質により活性化され、エラーを起こした細胞の死滅を促進するというのだ。

すなわちゾウにはp53遺伝子によるDNA損傷の発見能力が高いだけでなく、不適切な細胞を死滅させる能力も高いといえる。

A Zombie LIF Gene in Elephants Is Upregulated by TP53 to Induce Apoptosis in Response to DNA Damage

また、マンモスなどの化石DNAや現存の象のDNAを比較したところ、LIF6はこれら絶滅種にも存在していたが、6千万年ほど前に一旦機能が失われていたというのだ。その後2.5千万年前に機能を回復させる突然変異が起こり、遺伝子がゾンビのように蘇った。そのおかげて、現在のゾウは大きいが癌になりにくい特性を獲得し、大型化につながったと推定されている。

ゾウ以外にも大きな体格を有するが癌発症率が低いとされているのがクジラだ。哺乳類の中で200年を超える最長の寿命を持つホッキョククジラは,DNA修復に関与する遺伝子が通常と変化したり、複数のコピーを持つといわれている。また大型動物だけでなく、通常のマウスの10倍以上長生きするハダカネズミが存在する。ハダカネズミは体内の高分子量ヒアルロン酸が抗がん作用に関与していることが示されている。
 


 

生命誕生後我々の祖先は40億年かけて、数えきれない多くの種が絶滅する中、進化し生き延びてきた。自然界にこそ想像を超える生命の不思議が隠れているのだろう。

生命の長寿の秘密はともに生きる我々の友が一番よく知っているのかもしれない。

 

池田あやか

*Discovery認定コントリビューター

科学・アート好きの薬剤師。大学では主に超分子化学を専攻。科学の面白さを伝えようと、仕事の傍見て楽しい・触って楽しい科学イベントやサイエンスライターをしている。最近のお気に入りはモルフォ蝶の羽の構造色を利用したピアス。