え、そんなのアリ?
なかなかいい働きを見せた働きアリが、ネット界を賑わせている。
8月7日にYouTubeに登場した動画には、6本足の泥棒がダイアモンドのルースストーンを抱えて逃走する様子が収められており、2週間で152万回以上の視聴回数を稼ぎ出している。
(こちらは元の動画をNew York Post誌が編集し直したもの)
事件はニューヨーク市内の工房で起きたとみられ、犯行に及んだアリは3ミリメートルほどの体とほぼ同じ大きさのダイヤをしっかりとアゴにくわえ、フラつきながらも逃走。
そもそもどうやって工房内に忍びこんだのか、なぜ単独で犯行に及んだのかなど、詳細は不明だ。
テーブル上を数十センチメートル進んだ時点でビデオが終わってしまっているため、事件がどのように収束したのかは確認できないが、おそらく犯人は取り押さえられたとみられる。ダイヤのゆくえよりも、その後のアリの運命がとても気になるところだ。
ネットには犯人に同情的な意見が多数寄せられており、
「出世街道まっしぐら」
「あげちゃえよ、こいつにはふさわしい」
など、ダイヤの持ち主にしてみたらいささか気に障るであろうコメントも見られる。
アリの生態に詳しいミシガン州立大学の研究者、ヘレン・マククリーリィ(Helen McCreery)氏によれば、種にもよるものの、アリには自分の体重の100倍以上のものを運べる強靭なアゴが備わっているそうで、今回はその能力をフルに開花させて犯行に及んだようだ。重たいものはバックしながら引きずる習性もあるため、アリが単独で運べる重量MAXの大物ダイヤを狙った犯行であろうこともLive Scienceに語っている。
アリは通常、食べ物か巣作りの材料しか巣に持ち帰らないのだが、なぜダイヤを?
「おそらく、ダイヤをコーティングしていた化学物質が、アリに食べ物だと勘違いさせたのだろう」とマククリーリィ氏は推測している。世界で12,500種以上が確認されているアリだが、このダイヤ泥棒がどの種に当てはまるのかは残念ながらビデオのみでは検証できないという。
筆者の勝手で稚拙な憶測を言わせてもらえるならば、北アメリカでもごく普通に見られるヒゲナガアメイロアリ (Paratrechina longicornis)、俗称「crazy ant」ではないだろうか。
「Crazy」という不名誉な名前然り、この種のアリはまっすぐ進まずに、ジグザグに狂ったように進むのが特徴。長い足と触覚を持つ。働きアリは体長約3ミリメートルで、初夏から秋にかけて女王アリがもっとも産卵する時期に、よりたくさんの食べ物を巣に持ち帰るために普段より活動範囲を広げて探し回るという。
ちなみに、ビデオを観た多くの人はアリを「彼」呼ばわりしているが、実際働きアリはすべてメスだ。アリの女子も、きらめくダイヤには弱いらしい。
山田ちとら
*Discovery認定コントリビューター
日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/