ムンクの『叫び』が人を惑わす…2度盗まれた名画

両手で耳を塞ぎ、橋の上で叫ぶ男。

エドヴァルド・ムンクの代表作『叫び』を知らない者はいないだろう。『叫び』は、1893年から1910年にかけて、同じ構図ながら画材の異なる5点が制作されている。そしてこの作品は、2度も美術館から盗まれるという不遇の運命を辿っているのである。

2004年8月22日は、『叫び』が2度目の盗難にあった日だ。

 

1度目の盗難

最初の盗難事件は1994年2月12日に起きた。盗まれたのは、オスロ国立美術館で展示していた1作目の油彩の『叫び』だ。ノルウェーで開催されたリレハンメル冬季オリンピックの開幕式と同じ日だった。

この日、『叫び』はオリンピックの祭典の一部として普段とは異なる展示室に移されていたため、警備が手薄になっていた。犯人の男2人は、窓ガラスを割って易々と『叫び』を盗み出した。大胆不敵にも犯人たちは「貧弱な警備をありがとう」と書いたメモを残していった。

翌月、犯人からおよそ1億円にものぼる身代金の要求が美術館へ届くが、ノルウェー警察とロンドン警視庁、J・ポール・ゲティ美術館の協力のもとにおとり捜査が行われ、犯人グループは逮捕された。同年5月、『叫び』は無傷のままオスロ国立美術館に戻ってきた。

 

2度目の盗難

次に『叫び』が盗難にあったのが2004年8月22日。先のオスロ国立美術館と同じノルウェー・オスロにあるムンク美術館に展示されていた、1910年制作のテンペラ画の『叫び』だ。

テンペラ画の『叫び』 Credit: パブリックドメイン

犯行は美術館がオープンしていた昼間に行われた。銃を持ち、目出し帽をかぶった2人の犯人が美術館に押し入いり、『叫び』と同じムンクの作品『マドンナ』を盗み出した。当時、美術館の警備員がいたが、武装した強盗には対処できなかったという。

2005年4月8日、ノルウェー警察は強盗の容疑者を逮捕したが、絵の行方は分からないままだった。最終的に見つかったのは、盗難から2年後の2006年8月31日のことである。『叫び』と『マドンナ』には損傷箇所があったが、2008年に修復完了し、展示が再開されている。

ムンクの作品の盗難事件は上記以外にも数多く発生している。人を惹きつけ魅了するだけでなく、人間を惑わせ、おかしくしてしまう魔力をも、ムンクの作品は持っているのかもしれない。