太平洋に浮かぶ巨大なゴミベルトの醜態…プラスチックゴミを減らすために今すぐできること

太平洋の真っただ中に浮かぶ大量のプラスチックゴミを初めて発見したのは、アメリカの海洋研究家、チャールズ・ムーア船長だった。

1997年7月、第39回トランスパックヨットレースを終えたムーア船長率いるアルギータ号は、ホノルルから北アメリカ西海岸への帰路に着いていた。異例のエルニーニョ現象が続き、太平洋の海水は未だかつてないほど暖かかったとムーア氏はThe New Republicに語っている。

近道をするために普段の航海ルートから逸れたアルギータ号を迎えたのは、水面を漂う大量のゴミだった。陸地から何千キロメートルも離れた大海原に浮き沈みしている大小さまざま、色も形もさまざまな大量のプラスチックゴミの目撃情報に、世界は騒然となった。ムーア氏は後に洋研究所を開設し、調査を進めて「太平洋ゴミベルト」の名を世に知らしめた。

Credit: NOAA Marine Debris Program via Smithsonian Ocean

 

世界中の河川や海辺に捨てられたプラスチックゴミが沖に流され、潮の流れに沿って溜まっていく「ゴミベルト」は世界中で複数が確認されている。大海原に巨大なゴミの山が浮かんでいる様子を想像してしまうが、その実態はもっと複雑だ。

水面下を漂うゴミも多く、それぞれのゴミの大きさがバラバラで動きもバラバラなため、衛星画像からは容易に確認できない。

レーザー光を駆使した最新の調査によれば、ムーア船長が発見したアメリカ寄りのゴミベルトの面積は160万平方キロメートル。フランスの面積のおよそ三倍だ。その中に漂うプラスチックゴミは8万トンにも及ぶとThe Ocean Cleanupは試算している。

 

プラスチックの被害

分解されにくい大きなプラスチックゴミは、海洋生物に絡みついたり体内に取り込まれたりして、窒息死や餓死を引き起こしている。胃の中に29キロものプラスチックゴミが溜まって食べることができなくなり、餓死したマッコウクジラが2018年2月にスペインの浜辺に打ち上げられた例をはじめ、ウミガメ、ペンギン、海鳥や魚類にも同じような悲惨な被害が報告されている。

マイクロプラスチックの被害はもっと深刻だ。

プラスチックゴミの多くは波や太陽の力によって破砕され、5ミリ以下の「マイクロプラスチック」と呼ばれる粒子になって波間に漂っている。ときに肉眼で見えないほど小さく、たやすく海洋生物の体内に取り込まれてしまう。

Credit: The Ocean Cleanup

 

ところが、いくら小さくなろうとも分子レベルまで分解されることを拒むため、生物の体内に蓄積されてその生命を徐々に脅かしていく。最近の研究では深海魚やサンゴの中からもマイクロプラスチックが検出されており、海洋生物の食物連鎖にマイクロプラスチックが混入していることは明らかだ。

さらに、波と太陽が徐々にプラスチックを破砕していく過程で化学物質が溶けだし、海水を汚染していく。プラスチックを製造する際に使われる化学物質の中には細胞の成長を妨げたり、細胞分裂を阻止したり、細胞同士の情報伝達を阻害するものもあるという。食物連鎖の頂点に立つ人間の体に取り込まれるのも、時間の問題だ。

 

脱・プラスチック宣言

19世紀に発明されたプラスチックは、軽くて、丈夫で、製造が安価なため、いまや人間のくらしとは切っても切れない存在となっている。医療機器や電気製品、自動車や航空機はプラスチックなしではもはや成り立たないだろう。これらのプラスチックは種類にもよるが、家電リサイクル法などによって効果的に再利用できる仕組みが確立しつつある。

目下の問題は、梱包などの用途に使われる「single-use plastic(使い捨てプラスチック)」。レジ袋、ストローやカップなどが含まれ、プラスチックゴミの約3割を占めていると言われる。そもそも耐久性に優れたプラスチックだからこそ、一度きりで使い捨てするのは理に叶っていない。

The Ocean Cleanup

 

2007年にレジ袋の使用を廃止したブータンは先駆者と言えるだろう。最近は世界各国でレジ袋廃止の動きが顕著になっており、オーストラリアは2018年7月から全土でレジ袋禁止に踏み切り、賛否両論を呼んでいる。CNNによれば、レジ袋に対する禁止や課税などの措置はすでにイギリス、フランス、中国、オランダなど数十カ国が導入済みだという。

途方もなく広がってしまったプラスチックゴミだが、希望はある。今年中にも稼働するThe Ocean Cleanupというプロジェクトは、太平洋ゴミベルトのプラスチックゴミを回収し、5年間で半減させる予定だ。

私たちひとりひとりがゴミを減らすことも不可欠だ。常にマイバッグとマイボトルを持参して、レジ袋やプラカップの使用を断ろう。自分のテイストに合ったものを選べば、ファッションにもなる。また、海や山で自然を満喫している際にゴミを見つけたら、迷わず拾って帰ろう。地域のゴミ拾いボランティアに参加するのも気持ちがいいし、仲間も見つかる。

Credit: The Ocean Cleanup

 

なにより、今手元でガサガサ音を立てているレジ袋が、もし、はるか太平洋の沖まで流されて、美しいウミガメの命を奪うことになってしまったら……と少しばかりの想像力を働かせることが一番の抑制力になる。

 

山田ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/