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自動運転車による歩行者の死亡事故が起こらないようにするため必要な技術とは

2020年代には自動運転車が公道を普通に走るようになると言われるが、その利点は何だろうか。人のように間違いを起こさないから安全?運転者を必要としないこと?渋滞解消?数々の利点はあれど今年3月には自動運転車が歩行者を死なせる死亡事故が起きている。このような惨事が起きないために必要なのは何だろうか?

自動運転車による死亡事故

今年3月にはUberの自動運転車が歩行者をはねて死亡させる事故が起きている。

今年5月に公開されたEconomistの記事によれば、自動運転車において事故を防ぐために重要な3要素は、レーダーやカメラなどによる物体を検知しそれがなんであるかを認識すること、その物体がその後どう動くのかの予測、そしてその予測に基づき車がどう反応するかの決定だ。

しかしスタンフォード大学教授でGoogleの自動運転車研究を以前率いていたセバスチアン・スラン(Sebastian Thrun)がEconomistに語るところによれば、この中でも一番難しいのは「認識」だという。スランが関わっていたGoogleの自動運転研究の初期段階では、彼らの認識モジュールは「プラスチック袋と、宙を舞う子供」の区別ができなかった。

そしてUberの事故でも問題はそこにあった。自転車と共に歩行していた人は事故の6秒前に検知されていたものの、当初はこれが「不明な物体」だと認識され、後に「乗り物」、最終的には「自転車」であると認識されるものの、その動きの予想はままならぬまま、事故の1.3秒前にようやく急ブレーキが必要だと判断された。しかし自動運転による急ブレーキシステムは無効化されており、結局車両に搭乗していた急ブレーキを掛けるべき人間の安全管理者も自動運転システムのスクリーンを見ていたため人に気づくことはできなかった。

自動運転レースカー

打って変わって先月、自動運転AIによる新たなエンターテインメントを目指す「Roborace」社の自動運転車「Robocar」が、イギリスの有名モータースポーツイベントでレーストラックを駆け抜けた。

毎年イギリスで開催されるレースカーの祭典「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でのことだ。そこでは5万5000人の観客が見守る中ヒルクライム・コースを一台の無人車両が駆け抜けた。映画『トロン:レガシー』や『オブリビオン』などで知られるデザイナー、ダニエル・シモン(Daniel Simon)がデザインした黒字に蛍光緑の縁取りのRobocarは、どことなく普通のレースカーを連想させなくもないが、人が乗るべき位置に通常あるはずの膨らみもなければ、F-1のようなエンジン音もしない無人レースカーだ。

最高時速は320kmほど出るとされるこの車だが、今回のコースは時速を120kmまでと制限しての完走だった。Autosportに語るRoborace社COOのジェン・ホーシー(Jen Horsey)によれば、これは観客が大勢いるという環境、そしてレーストラックとは異なる複雑なコース環境でのテストであり、現段階での最終テストだという。

Robocarの開発車両「Devbot」はクラッシュしたことはあるものの、Roborace社が人身事故を起こしたことはまだない。その理由の一つには走行回数が少ないこと、そしてもう一つは走行環境であるレーストラックには人が入り込まないことがあるだろう。

日本の自動運転車導入

日本でも自動運転車は徐々に活躍の幅を広げようとしている。日刊工業新聞社ニュースイッチの報道では、日本でも路線バスが廃線となった過疎化、高齢化の進む中山間地域の公道で自動運転車の実証実験が行なわれている。またトヨタは2020年には東京オリンピック・パラリンピックにおいて選手の輸送が同社の自動運転車により行われるとしている。

そして、EE Times Japanによれば、内閣府に設置された「総合科学技術・イノベーション会議」主管の研究開発プログラム「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)は、自動走行システムをテーマに掲げ2014年度より行っていた第1期を終了し、新たに自動運転のシステムとサービスの実用化に注力したプログラムの第2期が始動したところだ。この第2期は、2023年までに自動運転実用化に要する技術を確立することを目指しており、都心などの一般道や高速道で自動運転やそれに必要な機能の実証実験を行うとしたもの。

車道が変われば

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このように自動運転車の技術は日々進化しており、その姿は日に日に私たちの日常に近づいてきている。しかし、未だ完璧とは言えないその安全性が一般道で実証実験されることに不安を禁じ得ない人もいることだろう。

Uberの自動運転車による死亡事故のような悲劇が将来起きないようにするには物体認識技術を発展させるのも一つの手段だろう。だが、自動運転車について人々やメディア、更には研究者が主に注目するのは、車そのものに搭載される技術や、AIなどに偏っているように思われる。ここでの難しさは、今回の例のような死亡事故をなくすためには考え得る全ての状況に対応可能な自動運転車の作成が求められる点だ(どんなに奇抜な服装の人が道路を横切ってもそれが人と認識される、想定外の方向から素早く飛び出す人にも対応、当たり屋に対応するなど)。もちろんこのための技術は改善されていくはずだが、それが全ての状況に対応できるようになるにはどれだけの時間が掛かるだろう、そしてそれまでに何人が自動運転車の犠牲になるのだろうか?

だが逆に自動運転車が走る環境に起こりうる要素を制限すれば、より素早く容易にこれが可能かもしれない。例えばRobocarが走る場所は基本的には歩行者がレース場に入り込まない(はずの)環境であるし、中山間地域でのテストも市街地と違い鹿が横切ることはあっても人が横切ることが希なはずだ。このような起こりうることが実際的に制限される環境を人工的に作ることが出切れば事故は減らすことができる。そしてそもそも現在の自動車用道路はその上を走行する車両の都合に合わせて形作られてきたはずである。これをもう一歩押し進めて、歩行者に対して横断歩道の使用義務が徹底される仕組みの作成や、車道を現在の高速道路のように車両以外のものが物理的に入り込み辛い形状にするなどすれば、自動運転車がより人にとって安全な形で走行可能になるし、自動運転車の導入もそれだけ早く行うことができるはずだ。それだけでなく、これにより人の運転する車による人身事故も減ることだろう。

もちろんそうしたところで自動運転技術の進化の必要がなくなるわけではない。だがSIPのように政府が関わっての自動運転車に関する戦略作りが可能かつ、近い将来自動運転車を幅広く導入することを推進する日本のような国には、歩行者にとっても有人運転車にとっても安全な無人運転車走行環境を作るという選択肢も存在するということを忘れてはならない。

 

安藤 悠

*Discovery認定コントリビューター

フィンランド在住のライター。執筆分野は、エンタメ、ガジェット、サイエンスから、社会福祉やアートに文化、更にはオカルト系まで幅広い。ライター業の傍らアート活動も行っているほか、フィンランドや日本で両国の文化を紹介する講演を行うことも。
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