実は宇宙旅行を計画しているのは、これまで取り上げてきたブルー・オリジン社やヴァージン・ギャラクティック社だけではない。イーロン・マスク氏が率いるスペースX社もその一員だ。
2017年2月、スペースXは2人の旅行者を宇宙船に乗せ、月の周りを飛行した後に地球に帰還するという宇宙旅行プランを発表した。
はたして民間宇宙開発企業による月への宇宙旅行計画には、どれだけの現実性があるのだろうか。
巨大ロケットを利用する宇宙旅行

スペースXが発表した宇宙旅行計画は大胆なものだ。他社がロケットやスペースシップによる高度100km程度の弾道飛行を提案する中、同社は宇宙船で月の周りを飛行させると表明したのだ。また、宇宙旅行の実施時期は2018年後半だとも案内されていた。
打ち上げには巨大ロケット「ファルコン・ヘビー」が利用される。こちらはすでに2018年2月に初回打ち上げが成功しており、今後は商業的な人工衛星、あるいは探査機の打ち上げが予定されている。
さらに、この宇宙旅行への参加を希望する2人は手付金を支払い済みだと発表されている。その氏名や手付金の金額は発表されていないが、この旅行計画は金銭的にはなんら問題のないはずだった。
遅れる宇宙船の開発

ところが2018年6月、ウォール・ストリート・ジャーナルはこの宇宙旅行計画が2019年半ば以降に延期されたことを報じた。
スペースXにとって最大の問題は、旅行者を搭乗させる宇宙船「クルー・ドラゴン」がまだ完成していないことだ。クルー・ドラゴンは、同社の国際宇宙ステーション補給機「ドラゴン」の有人バージョンに相当する。
しかし2018年8月、このクルー・ドラゴンの有人でのテスト打ち上げが2019年4月に延期されると発表された。さらに、宇宙飛行士の輸送ミッションはNASAの認証を得た後になる。もちろん、2018年中の宇宙旅行など不可能だ。
宇宙旅行を諦めないスペースX

しかし今回の延期はスペースXにとっても、そしておそらくは宇宙旅行の契約者にとっても想定内のものだろう。なぜなら、同社は計画遅延の常習犯だからだ。
スペースXは宇宙旅行の計画の延期の際にも、「我々は月旅行を諦めておらず、顧客からの関心も高まっている」と表明している。
さらに、スペースXの大きな目標は巨大ロケット「BFR(ビッグ・ファルコン・ロケット)」を使用し、火星に100万人規模のコロニーを建造することだ。ファルコン・ヘビーを使った月旅行は、その前段階の「余興」といっても差し支えないだろう。
これまで連載の中でブルー・オリジン、ヴァージン・ギャラクティック、スペースXと3社の宇宙旅行計画を取り上げてきたが、そのどれもが異なる手段を利用した、オリジナリティのあるプランとなっている。現段階では3社のうちどこが最初に宇宙旅行を実現させるのかは不透明だが、人類が気軽に宇宙にアクセスできる日は確実に近づいているのだ。
塚本直樹
*Discovery認定コントリビューター
IT・宇宙・ドローンジャーナリスト/翻訳ライター。フリーランスとしてドイツを中心にヨーロッパにて活動しつつ、日本でのラジオ出演やテレビ、雑誌での解説も。 @tsukamoto_naoki