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アートと科学の力を合わせて…SNSで広まる疑似科学に誤情報に立ち向かえるか?

嘘や誤報は真実よりも広まりやすい。そんな中で人々に正しい科学を伝えるには…もしかしたらアートの力が助けになるかもしれない。

広まる嘘

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The Conversationに寄稿するカナダ、アルバータ大学衛生法学研究所研究部長で教授のティモシー・コールフィールド(Timothy Caulfield)は、セレブリティーや疑似科学を信じる「健康の専門家」らが健康に関する誤った知識を人々に広めている現状を危惧している。特に昨今はソーシャルメディアの流行により、これまでよりもこのような誤情報が広まりやすい状況となっているのだ。

人々が誤った情報に惑わされず、正しい知識を得るためにはどうすれば良いだろうか?これには人々に科学とクリティカルシンキングを教えるのが有効だという研究がある。ジャーナルScience & Educationに今年2月に掲載されたジェームズ・A・ウィルソン(James A. Wilson)による研究では、超自然や疑似科学のテーマに挑んだ科学とクリティカルシンキングのコースを受けた後の学生は、受ける前と比べて超自然や疑似科学への信仰心が6.8~28.9%減少したという(なお迷信への信心については有意義な変化は見られなかったというのも興味深い)。

では正しい情報や科学を人々にこれでもかと教え込もうとすれば良いのかと言えば、そうでもない。いくら正しい情報を提供しても、元々人々が持っている意見とその情報が相容れない場合はこれを批判的に見てしまうという認知バイアスも存在するからだ。このために、ただ単に「事実」や「証拠」を人に伝えようとしても、それで逆に人々の意見が両極化することになるという研究もある(Lord, et al. 1979)。

人はなぜ迷信を信じるのか…研究が示すその効果とは

アートを通じた伝達

ここでコールフィールドが提唱するのは、視覚的に訴え、共感してもらえる形式で正しい情報を伝えること。つまり、科学をナラティブ性を持ったヴィジュアルアート作品で人の注目関心を集め、これを助けに人々に正しい知識を伝えるというアイデアだ。コールフィールドの衛生法学研究所のチームはこのアイデアの基に「SCI+POP」と題し、ソーシャルメディアで科学をアートと共に伝えるプロジェクトを行っている。

見る者に瞬時に直感的、感情的な反応をもたらし、複雑で含みを持ったアイデアを伝えることが出来、記憶にも残りやすいアートを上手く使えば、人々に正しい科学教育ができるようになるというわけだ。これに似たものが上手く機能した例として、ウェールズで気候変動に対する取り組みにアートが用いられたことで、人々がこの話題により関心を持ち、一部はこの取り組みのために行動も取ったという研究がある(Evans, 2015)。

アートで科学への関心の種を作れるか

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アートと科学を組み合わせたこのプロジェクトは、Twitterやinstagramなどで「#SciPop」ハッシュタグを通じて正しい知識を人々に広めたいようだ。ここで問題となるのは、誤情報や疑似科学もまたこれと同様に、(セレブリティーを通してなど)人々に受け入れられやすい形をとることでソーシャルメディアを通じて広まってきたと言うことだ。

こうなるとある意味でこれはプロパガンダの戦いとも言えるかもしれない。(これらに主立った政治的な意図はないかもしれないが、知識教養を人に教えること、またその反対に人に誤った知識を教えることはどちらも政治的な意図を持っていると考えることもできるだろう。)その意図はどうであれ、どちらも自分の伝える情報を正しいと考えて広めようとしている場合、この戦いの勝者はどちらになるだろう。結局そのもたらす効果は、人がその情報を受けるまでに身につけた科学的知識がどれだけあるのか、客観的な思考を取る術を身につけているかどうかにかかってくるのではないだろうか?

特に疑似科学は一見すると科学的に見えることからも、正確な知識がなければ見極めは難しいだろう。「真実」にせよ「科学」にせよ、ビジュアルアートはおろか、サイエンス系ニュースを軽く読んだだけで簡単に理解できるものではない。それらは、多くの場合土台となる情報の上に積み重ねられ、絡み合い、複雑に形成されて成り立っているものであり、これを簡潔に伝えようとすればそこに無数に但し書きをつける必要があるべきものだ。(加えて、ある時点で「正しい」科学知識であっても、新たな発見や研究により覆されることもあるという忘れてはならない。)

アートを通じて人々に正しい科学知識をもたらそうというSCI+POPプロジェクトだが、もしかしたら一番重要な点は正しい知識をそのままの形で伝えることにはなく、科学そのものへの興味をより強く持ってもらうことにあるのかもしれない。疑似科学や偽情報にありがちな、誤ったデータを示して終わるだけの情報ではなく、人々に興味関心の種を植え付け、知識欲を刺激し、その物事に関しての学習意欲をかき立てることができれば、その先には人々が怪しげな誤情報に騙されることのない未来が待っているかもしれない。

(なおコールフィールドは2017年に予防接種に関する人々の誤解を解くために科学的分析にアートとエッセイを交えた書籍『The Vaccination Picture』も出版している。)

 

安藤 悠

*Discovery認定コントリビューター

フィンランド在住のライター。執筆分野は、エンタメ、ガジェット、サイエンスから、社会福祉やアートに文化、更にはオカルト系まで幅広い。ライター業の傍らアート活動も行っているほか、フィンランドや日本で両国の文化を紹介する講演を行うことも。
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