Credit : Denis Barthel / Wikimedia Commons CC 3.0

数をかぞえられる植物!?ハエトリグサの巧妙な策略

数をかぞえられる植物がいる。食虫植物のハエトリグサ(Dionaea muscipula)だ。

折りたたみ式の葉を広げて小さな虫が通りがかるのをひたすら待ち、ハエやアリなどが葉の内側に足を踏みいれたとたんに素早く葉を閉じて捕まえる。その速さ、わずか0.5秒。葉に閉じ込められた虫は消化液でドロドロに溶かされ、そのうちカリウム、リン、窒素など植物に欠かせない栄養素はハエトリグサに取り込まれる。

もともと北アメリカに自生していたハエトリグサは、いまや園芸種として世界中に広まっている。お近くの園芸店にも並べられているかもしれない。

Credit: Chitra Yamada

 

試しにそんな園芸種のハエトリグサに死んだ虫を与えてみても、葉が閉じないことに気づく。そこで今度は生きている虫を与えてみると、葉が閉じる時もあれば閉じない時も…。ハエトリグサは選り好みをしているのだろうか?

Credit: Noah Elhardt / Wikimedia Commons CC 2.5

 

秘密は葉の内部に隠されている感覚毛にある。

生きている虫は動きが活発だ。そのせわしない体がハエトリグサの感覚毛に2度以上触れないと葉が閉じないしくみになっている。しかも、はじめに感覚毛が刺激されてから20秒以内にもう一度刺激されなければ、葉は閉じないしくみになっているのだ。

神経科学者兼エンジニアのグレッグ・ゲージ(Greg Gage)氏がTED Talk向けに行った公開授業で、この様子をありありと見ることができる。初めにハエトリグサの感覚毛に刺激を与えてから、1秒、2秒、3秒…。刻々と時間が過ぎていく中で、ハエトリグサは慎重に数えている刺激と刺激との間に20秒以上の間隔が空くと、ハエトリグサは葉を閉じない。

ゲージ氏によればこれはエネルギー消費の最適化の結果だという。ハエトリグサは葉の開閉に大きな時間とエネルギーを消費してしまう。さらに、何度か開閉した後には葉が力尽きて枯れてしまう。より確実に虫を捕らえるために巧妙な工夫が重ねられた結果、ハエトリグサは時を数えて狩りをするようになったと考えられている。

 

地中に根を下ろし、動物のようには移動できない植物たちは、とかく動かない受動的な生物だと思われがちだ。しかし、植物と動物は15億年前からまったく異なる時間軸の中でまったく異なる進化を遂げてきた。

時に人間には知覚できないスロースピードで、植物の根、穂先、葉や茎は確実に動いている。ハエトリグサの葉の動きは「膨圧運動」と呼ばれ、葉の細胞内の液体が移動することで葉の内側と外側の圧力に変化が生じて葉がすばやく閉じるしくみになっている。

ダーウィンが初めてハエトリグサを目の当たりにした時、動いて動物を食らうその姿に魅了されたという。それから100年以上経った今も、ハエトリグサがどのように数をかぞえられるのかはまだ科学的に解明されていない部分が多い。植物が動かず、反応せず、ただなされるがままに生きているという誤った認識を払拭してくれる、驚きに満ちた食虫植物だ。

 

山田ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/

 

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