キリストの遺体を包んだ『聖骸布』、最新研究でも本物でない可能性を示唆

『トリノの聖骸布』とは、『聖杯』や『聖釘』とともにカトリック教会に伝わる聖遺物の中でももっとも生々しく、死を強く意識させるものだ。長さ約4.4メートル、幅約1.1メートルの亜麻布で、手を陰部の前で交差させて横たわる男性の姿が血に染められて浮き上がっている。

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スペインに保管されている『トリノの聖骸布』の精巧なレプリカ

キリストが磔によって処刑された後この布にくるまれて丁重に葬られたと伝えられ、イタリア・トリノの聖ヨハネ大聖堂に大切に保管されている。左右対称に穴が開いているのはたたまれたまま火災の被害に遭っているためだ。その後修道女たちが修繕を試み、三角布と当て布が継ぎ当てられた。

これまで多くの科学者が化学、法医学、放射線医学や花粉学の立場から聖骸布を検証してきたが、その真偽はキリスト没後2000年近く経った今も結論が出ておらず、いまだ議論の対象となっている。

新たに7月11日付で学術誌『Journal of Forensic Sciences』に発表された研究は、聖骸布についた血のりを詳細に分析し、キリストが処刑の際に被ったとされる傷と一致しているか、そして血の流れ方がどのような体の向きだと再現できるかを法医学的人類学の知見に基づいて徹底検証した。

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研究対象の生々しさもさることながら、今回の実験方法は相当血なまぐさいものだったようだ。研究者はボランティアに、もしくは自分たちの身に血を浴びせ、そのまま横たわった場合血がどのように体から流れ落ちるかを記録した。手を45度の角度にした場合、体と直角にした場合…、とあらゆるポジションを想定し、その際布にどのような血のりが付着するかを観察して聖骸布についた血のりと比較したそうだ。

キリストが磔の上で息を引き取った後、死刑執行人がその死を確認するために槍で脇腹を貫いたとされる。さすがに生きている人を刺すわけにはいかないので、その傷を再現するために血を吸わせたスポンジをマネキンにあてがい、それを槍で突いてから血がどのように流れるかを検証する徹底さだった。

血みどろの検証が行われた結果、聖骸布に現れている血痕を完全に再現できなかったという。つまり、血のつき方や流れ方が統一されておらず、複数のポジションから流れた血の痕が一枚の布に合成されているとの結論に至ったそうだ。

じつは今回の研究に先立つこと30年、1988年には放射性炭素年代測定が行われ、この布が14世紀のものだという結果が出ている。結果の信ぴょう性を疑う科学者もいるものの、聖骸布が作り物であるという認識が高まってきている。

作り物であったとしても、聖骸布の具体性は見る人の心を大きく揺さぶる力を秘めており、今でも一般公開には大勢の信者がトリノに集まるそうだ。

カトリック教徒でなかろうとも、そしてたとえその布が中世に生きた天才による見事な作り物だったとしても、一人の人間がこれだけの苦しみに耐えながら死んでいったという事実をまざまざと見せつけられて戦慄を覚えずにはいられない。