ジャングルにひそむ食肉植物…!哺乳類も捕らえるウツボカズラ

1996年、フランスのリヨン植物園で異変が起きた。立ち並ぶ立派な温室のひとつから悪臭が漂い始めたのだ。

不審に思った植物園のスタッフがネペンテス・トランカータ(学名: Nepenthes truncata)という種のウツボカズラの捕食袋を覗き込んだところ、半分溶けかけて腐乱したネズミの死骸が入っていたとNew York Postが伝えている。食虫植物の驚くべき生態が人間の管理下で確認された初めてのケースだった。

Credit: C. Yamada / 東京都立神代植物公園
植物園の大温室内でしずかに獲物を待ちかまえるウツボカズラ

 

いままで発見された中で最大の捕虫袋を持つのはネペンテス・ラジャ(Nepenthes rajah)だが、ネズミを始めカエル、トカゲ、鳥類などの小動物が捕食されていることが調査で分かっている。

またBBCによれば、2009年にフィリピン・パラワン島の高山地帯で発見されたネペンテス・アッテンボロギ(Nepenthes attenboroughii)は、30センチほどの捕虫袋でクマネズミのような大型の哺乳類も捕食するそうだ。

昆虫しか捕食しないと考えられていた食虫植物。リヨン植物園の不幸なネズミはおそらく誤ってウツボカズラの落とし穴にはまってしまったのだろうが、自然界ではこのようにネズミを始めとした小動物も捕らえた例が続々と報告されている。植物が動物を捕らえて食している姿はなんとも禍々しい想像を掻き立てる。

 

脱出不可能な落とし穴

Credit: C. Yamada / 東京都立神代植物公園

食虫植物は虫や小動物を捕らえるために様々な進化を遂げている。いくつか捕虫方法がある中で、ウツボカズラ属の植物は落とし穴戦術を極めた。英語の俗名である「pitcher plant」からも伺えるように、水差しそっくりのかたちに進化した葉を持つ。上部にはフタがあり、この裏に仕組まれた甘い蜜線で虫や小動物をおびき寄せるのだ。

Credit: C. Yamada / 東京都立神代植物公園

捕食袋の内部はツルツルしたコーティング加工がなされ、同じくツルツルとしたへりの部分には細かい無数の溝が縦に走り、内部へといざなう。獲物がうっかり足を滑らせようものなら、袋の内部に溜まっている消化液に溺れるか、または生きながらも溶かされていくかのどちらか。いずれも落とし穴にはまってしまった獲物に勝算はない。

 

したたかな進化

食虫植物といえども、ウツボカズラも葉緑素を持ち、光合成を行って自らエネルギーを作り出すことができる。それではなぜ、ウツボカズラ属の植物はわざわざ動物を食べるために進化したのか。

答えはその環境にあった。

ウツボカズラが生えている高山や林床には、植物が育つ上で必要な窒素などの栄養分が不足している。その足りない栄養を補うために、積極的に動物を捕らえるようになった。植物は動き回ることはできなくても、その環境に適応するためにしなやかに体の機能や特性を変えることができる、したたかな生物なのだ。

Credit: C. Yamada / 東京都立神代植物公園
ウツボカズラの花

 

友好的な進化の例も

なかには動物から友好的に栄養を分けてもらうように進化したウツボカズラもいる。

Live Scienceによれば、Nepenthes lowiiという種(和名はなんとシビンウツボカズラ)は、虫に乏しいボルネオの高山に生えているため、虫以外の栄養供給源を確保しなければならなかった。そこで巧みに誘いこんだのがコモンツパイ(Common tree shrew)。捕食するのとは逆に、甘い蜜をたっぷりとごちそうした後でそのフンを頂戴するのだ。

Credit: JeremiahsCPs / Wikimedia Commons
シビンウツボカズラの捕食袋

シビンウツボカズラの空中に吊り下げられた捕食袋――いや、レストラン兼トイレは、コモンツパイにぴったりのサイズにあつらえてある上に、コモンツパイの重さに耐えられるように頑丈に作られている。中央部分がくびれているのは、万が一コモンツパイが中へ落ちてしまっても出られる仕組みなのだろうか。ほかのウツボカズラの捕虫袋は上部のへりがツルツル加工されているのだが、こちらにはそれがない。

さらに、シビンウツボカズラはウツボカズラ属の中でも随一の蜜量を誇っているため、コモンツパイ側からも重要なエネルギー源として重宝されているのだ。

食事に満足したお客は、そのまま捕食袋にまたがったままフンをする。いただいたフンから、シビンウツボカズラは窒素の必要摂取量のじつに57~100%を補っているというから、なんとも賢く、双方に有益な共生関係といえるだろう。

 

山田ちとら

*Discovery認定コントリビューター

日英バイリンガルライター。主に自然科学系の記事を執筆するかたわら、幅広いテーマの取材とインタビューにも挑戦している。大学時代に断崖絶壁に咲く青いケシの花に憧れてネパールへ留学するも、ケシを見つけられないどころかトレッキング中トラブルばかりに見舞われて結局植物学から文化人類学へ転向。人間と自然の相互作用が研究テーマ。https://chitrayamada.com/