Credit : Credit: chiplanay / Pixabay

経産婦は「キメラ」だった?…妊娠中に取り込まれた赤ちゃんの細胞は母体組織の修復を助けるかも

たしか学校ではこのように教わったはずだ。妊娠中の母親とその胎内に宿る赤ちゃんは、胎盤を通じて栄養分、代謝物、ガスなどの交換しているが、双方の血液細胞は決して交わらないと。

どうやら実際そうでもないようだ。赤ちゃんの細胞が胎盤を通して少しずつ母親の血流にリークされ、やがては母親の体内を巡って器官に取り込まれるらしいことが徐々にわかってきている。

 

母と子の融合

生物学上、ひとつの体に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている状態を「キメラ」と呼ぶが、体の中に胎児の細胞を取り込んだ母親も一種のキメラだ。

「胎児性マイクロキメリズム(Fetal microchimerism)」は正常妊娠でも起こり、個人差はあるものの、母親が一生子どもの細胞を取り込んだままの状態でいることもあるそうだ。

例えば2015年に発表された研究では、出産後1か月以内、または出産中に死亡した妊婦26名の遺体を調査し、彼女たちの脳、心臓、腎臓、肺、脾臓と肝臓からY染色体を検出した。Y染色体は通常男性しか持っていない。26人の女性はすべて男児を身ごもっていたことから、これらのY染色体が赤ちゃんから巡ってきたと結論付けられた。

この方面に詳しいカリフォルニア大学サンタバーバラ校の生物学者、エイミー・ボーディ教授によれば、このように多種多様な器官で発見されていることから、赤ちゃんの細胞はおそらく幹細胞だと推測されるという。

細胞の移動は早ければ妊娠6週目からはじまり、妊娠中ずっと継続する。ところが出産後に事態は急変し、とたんに母親の免疫細胞が赤ちゃんからの細胞を「外部からの侵入者」とみなして攻撃しはじめるそうだ。

攻撃をうまくかわせた赤ちゃん細胞は、そのまま母親の体内にいすわり続けることもある。2012年の別の研究では59名の女性の脳を調べた結果、63%がY染色体を持っていることを確認した。そのうち最高齢の女性は94歳だったことから、出産後ずいぶん長い時を経てもなお、赤ちゃんの細胞が母体にいすわり続けていたことが伺える。

諸刃の剣?

取り込まれた細胞は母親の体内でどのような役割を果たしているのかはまだ完全に解明されていない。

諸説あるが、ボーディ教授や国立病院機構呉医療センターの佐村修医師によれば、母親の体内組織が損傷した際にその修復を助けている可能性や、母親の授乳を促進する役割を果たしている可能性が指摘されている。

その反面、出産直後に起こる母親の自己免疫疾患の症状が赤ちゃんの細胞によって引き起こされているとの見方もあるそうだ。これは例えば二人目の子どもの細胞が母親の体内に入ってきた時に起こるとも言われている。

進化の過程という観点から見れば、母子どちらか、あるいは相互になんらかのメリットがあるはずだとボーディ教授は語っている。

我が子の可愛さゆえに、思わず親子同士で心と体がつながっているような幸せな錯覚を覚える親も多いと思う(自身含め)。あながち間違っていなかったようだ。少なくとも母親の体内には、同じ細胞が躍動している。

 

RELATED POST