「見える」ロボットたちがアート世界の限界を押し上げている

ロボット技術が発展するにつれ、製造業・配送業・農業・医療などの分野では人に替わってロボットたちが働き始めてすでに久しい。では、アート制作をロボットに任せたらどうなるのだろうか?

今、まさにロボットがアートをつくる時代に突入していると指摘するのはオーストラリアのクイーンズランド工科大学教授、ジョナサン・ロバーツ氏だ。彼のいうアートとは、たとえば人工知能を搭載したグーグルのDeepDreamが自在に創り出す(ときに悪夢のような)デジタル画像の類ではない。あくまで人間が創り出す芸術作品をコンピューターを介して物理的なかたちにする取り組みだ。

今のところパブリックアートの活用例が実現しているが、今後「アートをつくるロボット」はさらに幅が広がる。ロボットの手を借りて芸術作品のスケールを大きくしたり、大量生産化したり、または制作コストを大幅に削減することが可能になれば、アートがより身近なものになると期待されている。

 

アートをつくるロボット

手作りの極みとも言えるアート。人それぞれの感性に形作られ、職人技が光る。「形作る」という観点から言えば、ロボットもかつてはアートだった。江戸時代のからくり人形は何百にも及ぶパーツから成るロボットでもあり、同時にアートでもあったのだ。

時代は変わり、2016年にはアートを制作するロボット「Quayola」自体がアートとして展示された。そのロボットが今、アートを形作る有効なツールとなってきている。

クイーンズランド工科大学はブリスベンを拠点とするオーストラリアのアート制作会社、アーバン・アート・プロジェクツ(UAP)と組んで彫刻ロボットを開発中だ。

先のQuayolaと同じKUKAロボティクス社のロボットアームをさらに開発し、手元が「見える」ようにした。手元の対象物と既存のコンピューターモデルの形状が一致しない場合は視覚的に察知して修正することができる。このロボットに『Poll』と名づけられた愛嬌たっぷりの彫刻作品の鋳型を彫らせ、今後同じ彫刻を4体制作する予定だという。

Credit: Roger D’Souza Photography / UAP

コンピュータープログラムで制御できるロボットたちは、時には人間の手よりも正確に削り、彫り、接合し、研磨できる。かつては熟練の職人たちが何日もかけてやり遂げた仕事を、ロボットなら単独でより速くこなせるようになってきた。

パブリックアートのようなスケールの大きい制作物のコストを下げるほか、3Dモデルを作成して自在にスケールを変えたり、インターネットを介してデータの共有を行い世界中でのコラボが可能になる。

The Conversationによれば、アート制作にロボットを導入する一番の狙いはマスカスタマイゼーションだ。スマートフォンの普及により、いまや時代は一般大衆に向けて売り出すのではなく、顧客ひとりひとりにカスタマイズされた商品を届けるビジネスモデルに転向しつつある。デジタル技術を利用した柔軟な製造システムを構築すれば、よりたくさんのアート作品をより安価に提供できる。

 

ロボットが建築を変える

一方、1990年代からデジタル化が進んだ建築業界はジレンマを抱えている。コンピューターを使った設計システム(CAD)を使ってモデリングと構造解析を行うことで、今まで描画では表現できなかった設計も可能になった。しかし、いざそれらを建設する段階になってみると、従来の建設方法では実現不可能な場合もあるのだ。

シドニー工科大学内に設置された『くしゃくしゃの鏡階段(Crumpled Mirrored Staircase)』。奇抜な作風で知られるフランク・ゲーリー氏がCADを用いてデザインした。しかし実際の設計・制作・設置を請け負ったUAP側は、すべて手作業でやってのけたそうだ。

 

もちろん、ゲーリー氏の代表作であるウォルト・ディズニー・コンサートホールも従来の建設方法で建てられ、足かけ16年という歳月を要した。おなじく斬新なスタイルで名を馳せた故ザハ・ハディド氏の設計の多くは建設されずに終わったものも多かった。

クイーンズランド工科大学が現在開発中の『見える』ロボットなら、ゲーリー氏が創り出す複雑な形状もスピーディーに作ってしまえるようになると期待されている。磨かれた職人技に替わり、機械の冷淡までにも正確な動作がマスカスタマイゼーションには不可欠となる。

とはいえ、いくら正確でもスピーディーでもロボットはただのツールに過ぎない。いつの時代のアーティストたちも、常に新しいツールや技術を駆使して新しい表現方法を模索してきた。ロボットは新たに加わったツールに過ぎず、それをどう活用していくかはまさにアーティストの腕の見せどころだ。