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世界中で野生動物が夜行性にシフトしている…人間を恐れて夜の世界に逃げ込んだ動物たち

都会のまっただ中で思いがけなく野生動物と遭遇した経験はないだろうか。

日がとっぷり暮れたある冬の夜のこと、筆者はふと電線を見上げてギョッとした。そこにはサーカスの綱渡りよろしくハクビシンの親子が7匹連なって歩いていたのだ。こちらの視線に気づいたのか、ハクビシンのほうがよほどギョッとした様子で、目当て(と思われる)柿の木の手前で止まり、そのままの姿勢でぎこちなくバックし始めた。…

コンクリートづくめの都市環境にも、このようにタヌキ、キツネ、シカ、アナグマ、アライグマ、ハクビシンなど、多くの野生の大型哺乳類が息づいている可能性が高い。それでもなかなか姿を見かけないのは、じつは動物たちが人間を避けるために夜行性になってきているからだという。

 

ナイトシフト

学術誌『Science』に掲載された研究によれば、世界中の63種類の大型哺乳類を調べた結果、人間を避けるために夜間に活動する傾向が平均して1.36倍増えていたという。例えば昼と夜とで五分五分に時間を分けて活動していた動物がいたとしたら、人間を避けるために夜間の活動を68%まで増やして、昼間の活動を32%に抑えるといった具合だ。

この結論に至るために研究者たちは世界中の研究を網羅し、人間の影響がある場合とない場合のどちらにおいても行動パターンが分かっているケースのみを対象にメタ分析を行った。狩猟シーズンとそうでない場合のシカの行動や、登山シーズンとそうでない場合のクマの行動パターンなどを綿密に分析。「夜行性」を「日の入りから日の出までに活動している時間」と定義して、人間の存在がどのように動物たちの行動に影響しているかを調べた。

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すると分析したケースのうち83%の野生動物に夜行性にシフトする傾向が見られた。この変動は種や、生息している大陸や、生息環境に関係なく見られたそうだ。

 

くさくて、うるさくて、とにかく避けるべき人間たち

さらに興味深いことに、猟など人間との対面が直接的な被害をもたらす場合でなくても、動物たちは人間の存在自体を避ける傾向にあることがデータにより立証された。

人間以外の動物たちからすれば、人間は脅威以外の何者でもない。動物たちの生息環境を破壊し、食べ物を奪い、空気や水を汚染し、生態系を乱し、乱獲によって頭数を激減させている。人間のこれらの行為は間違いなく動物たちに破滅的な被害をもたらしているが、これ以外にも人間の存在自体が動物たちに害を及ぼしていることがわかったのだ。

動物たちから見たら、人間はうるさくて、大きくて、予測つかないうえにくさくて(排気ガス等)かなわない。人間が地球上の土地という土地をどんどん支配していくにつれて、空間的に逃れられなくなった動物たちは人間に会わないで済むように時間的に住み分けをし始めている。

自然と対話するために山に入るトレッカーも、じつはその山の動物たちからは猛烈に避けられているのだ。行動パターンを夜行性にシフトしてしまうほどに。

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主任研究員のケイトリン・ゲイナー氏がThe Conversationに書いたところによれば、ネパールでは同じ林道を昼間は人間が歩き、夜はトラが歩いている。スマトラの森に棲息するマレーグマ(英語名:Sun Bear)はその英名が示すとおりもともと昼行性で日光浴が大好きだったのだが、人間の侵略が著しい地域では起床時間のうち約90%を夜の闇に紛れて過ごすようになったそうだ。

 

夜行性シフトがもたらすリスク

哺乳類の祖先はもともと恐竜という名の暴君とともに暮らしていたため、多くは夜行性だった。そのため今でもかつての夜行性の生態を維持している哺乳類は多い。

ところがマレーグマのように昼行性に完全移行してしまった動物たちは、夜行性に転じると捕食の危険性が高まるほか、食物を確保できなくなったり、仲間同士でコミュニケーションをとれなくなったり、繁殖の機会を逃したりする弊害も考えられる。

それに加えて生態系に及ぼす影響も甚大だ。食物連鎖が機能しなくなったり、獲物を巡る競争が激化する可能性もある。

研究の著者たちは、動物が完全に人間の存在から隔離されて暮らせるサンクチュアリなどの必要性を訴えている。

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