【ボーダーを超えていけ】第1回:ボルトより速く! 義足アスリートが「世界最速」になる瞬間を自分たちの手で

「メガネのような義足」を

いずれ義足の方が早くなる!

2008年、義足トップアスリートのオスカー・ピストリウス選手はパラリンピックでなく、オリンピック出場を望んだ。しかし国際陸連から、義足を使うのは「アンフェアだ」と許可されず裁判を起こしていた。

「当時、MITでは他大学と、ピストリウス選手がアンフェアでないことを証明しようというプロジェクトがあって、彼の走りを見たんです。すごく早くてカッコいいなと思いました。彼は2012年に史上初めてオリンピックに出た義足アスリートになりましたが、2008年の時点で僕はいずれ義足の方が健足者より早くなると確信し、わくわくしたんです」

2012年、MITで博士号取得し帰国した遠藤さんは、アスリート用義足を事業化しようと2014年にXiborgを起業した。最初は「馬鹿にされたし、協力してくれる人も少なかった」という。しかし興味を持ってくれる選手や協力企業が徐々に現れ、2016年に製品化にこぎつける。

アスリート用義足開発の難しさは「理想形がないこと」だと遠藤さんは言う。「例えば100m走9.98秒の日本記録を出した桐生選手には一応ウサイン・ボルトという、より速く走った選手がいます。でも義足アスリートのジャリッド・ウォレス選手のベストタイムは10秒71で世界記録と0.1秒差しかない。一歩抜けるには、前例がない走りをしないといけない。チームみんなで仮説を考えて検証する。そこが面白でもあり、難しさでもあります」

義足のノウハウが蓄積されたことから、Xiborgは今年中に契約アスリートを増やしたいと考えている。「2年後の2020年東京大会を見据え、今年がデザイン的にもチャレンジできる年。色々試したい」。遠藤さんはアグレッシブだ。

子供たちに走る喜びをー「ギソクの図書館」

これらトップアスリート用の義足だけでなく、遠藤さんらは「思い切り走りたい」と願う子供たちのために世界で唯一つの「ギソクの図書館」を2017年12月にオープンした。「日本では日常用の義足は1本だけ国の補助で買えます。競技用の義足は買わざるを得ないのですが、1本20万円以上と高価。ここに来れば義肢装具士さんに自分にあう義足をつけてもらい、隣接するトラックで走ることができる」。軽くてはねる板バネ(競技用義足)をつけ初めて走った子はすごく感動するという。ここで走りパラ陸上への出場を目指し始めた大学生も現れた。ロイターが報道したことから「ギソクの図書館」は世界主要メディアで取り上げられた。

「ギソクの図書館」では1回500円+施設利用料で義足をつけ、自由に走ることができる。月一回程度オープン。http://runforall.jp/

遠藤さんが義足の道に入るきっかけを作った後輩、吉川和博さんはその後、奇跡的に回復。一級建築士となって「ギソクの図書館」の一角のデザインを担当したという。ロボット義足は吉川さんらのフィードバックを経てプロトタイプができ、実験段階に入っている。

遠藤さんたちが目指すのは「メガネのような義足」。数十年前、目が悪いと分厚いメガネをかけざるをえず、メガネをかけること=コンプレックスになりえた。しかし技術の発達でレンズは薄くなり、今メガネをかけることに恥ずかしさを感じる人はいない。「メガネのように、つけていることも忘れるような義足。周りからも『あの人は義足をつけている』と思われないぐらい自然な義足を作りたい」。

一人の後輩のために、目の前のアスリートのために作る義足が、私たちの固定観念を崩し、社会を変えるうねりを起こすかもしれない。「身体×テクノロジーをテーマに、エンジニアとして世の中を驚かせるようなことをやっていきたい」。まずは2020年東京大会で、義足アスリート×板バネに注目したい。

 

林公代

*Discovery認定コントリビューター

宇宙・天文分野を中心に取材・執筆するライター。(財)日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーランスに。世界中でロケット打ち上げや、天文台を取材。著書に「宇宙においでよ!」(野口聡一宇宙飛行士と共著)、「宇宙へ『出張』してきます」(古川聡宇宙飛行士らと共著)「宇宙就職案内」など。この連載では柔軟な発想・手段でボーダーを超える人々、極限に挑戦する人々を追いかけていきたい。https://gravity-zero.jimdo.com/

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