なぜロシアの宇宙飛行士はバイコヌール宇宙基地へ向かう途中でバスに「立ちション」するのか

つい先日の6月4日。国際宇宙ステーションでのミッションを間近に控えた第56次長期滞在クルーがカザフスタンのバイコヌール宇宙基地へ向かうバスに乗り込んだ。

ところがバスは道半ばで止まり、ロシア宇宙飛行士が降りてきた。そして彼はなんと、バスの右後輪におしっこをひっかけ始めたのだ――。

Live Scienceによれば、以前からロシア人宇宙飛行士たちは宇宙に旅立つ前に立ちションしてきたそうだ。女性宇宙飛行士はわざわざコップに尿を用意してきてバスにひっかける徹底ぶりだとか。

ロシア人宇宙飛行士にとって、立ちションは人類初の宇宙飛行士であり大先輩であるユーリ・ガガーリンに習った宇宙に行く前の「儀式」。1961年4月12日、バイコヌール宇宙基地に向かう途中だったガガーリンも尿意をもよおし、しかたなくバスの後ろで用を足した。その行為がそっくりそのまま伝統となって、後世の宇宙飛行士たちに引き継がれているのだ。

こちらの映像はISS第46/47次長期滞在クルーが2015年11月30日にバイコヌール宇宙基地に向かった様子だ。おそらくロシア人クルーであるユーリ・マレンチェンコ氏は、この後バスを途中下車して……。

Live ScienceやESAによれば「立ちション」のほかにもいろいろな儀式があるようだ。かつてガガーリンがそうしたように植樹するのも大事な仕事。それ以外も宇宙航空博物館に足を運び、ガガーリンの墓標に手を合わせ、ガガーリンのかつてのオフィスを表敬訪問し、バイコヌールでの滞在先であるコスモノート・ホテルのドアに署名するなど、なかなか忙しそうだ。

Credit: NASA/Alexander Vysotsky
第38次長期滞在クルーメンバーの若田光一さんがコスモノート・ホテルのドアに署名
Credit: NASA/Bill Ingalls

なぜここまでガガーリンの儀式にこだわるのか。おそらく、何世代もの宇宙飛行士たちによって繰り返し行われてきた伝統に参加することで、宇宙飛行士たちの心の安定剤になるのではないだろうかと話すのはガガーリンの伝記の作者、アンドリュー・ジェンクス氏だ。宇宙への旅は死と隣り合わせの危険なミッションだ。その中でルーティーン化された行動をひとつひとつ着実にこなしていくことで、落ち着きを保てるのではないかという。

なによりロシア人にとってのユーリ・ガガーリンという存在は、もはや生身の人間を超越して伝説となっている。戦時中に激動の時代を迎えた旧ソビエト連邦にとって、ガガーリンは科学技術の象徴であり、誇り高き英雄であり、親孝行な息子であり、完璧な父であり夫であった。

バイコヌールに設置されたガガーリンの巨大な彫像。
Credit: NASA/Victor Zelentsov

そんな偉大な英雄の足跡をたどった数々の儀式だが、今後バイコヌール宇宙基地の老朽化に伴いボストチヌイ宇宙基地に拠点を移す計画もあるようだ。所変わっても伝統は続くのか。