【追跡!日本の妖怪】神か妖怪か?天狗伝説を追う 後編

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鞍馬山を一旦降りたところで、京都精華大学の研究員である久留島元氏が待ってくれていた。

久留島氏は「天狗」についての論文を書いて、ネットでも公開している。

名前や姿は知っていても、具体的に天狗とはどういった存在なのかを語れる人は少ない。天狗について詳しく知りたいと思い情報を調べていくうちに、久留島氏の書かれた論文の存在を知ったのだった。

「そもそも日本ではいつから天狗という存在が語られていたのですか?」という私の問いに、「日本書紀に天狗についての記述があります」と教えてくれた。日本書紀といえば前回、私が調査したツチノコ(野槌)の最古の記録が登場したものでもある。奈良時代の頃から現代にも語り継がれる妖怪が続々と語られていたのだと思うと興味深い。

雷のような轟音を立てながら、巨大な流星が出現した。それを見た唐に留学経験を持つ学僧が「これは天狗である」と語ったというのが日本では最初の天狗についての記録だった。

人型で赤い顔をした長い鼻の持ち主などは一切出てこないのは意外であったが、流星が天狗として考えられていたというのは、UFO研究家が唱える天狗=宇宙人説を裏付けることにもなるのでは?と思った。

そもそも天狗の発祥は中国であるのだが、凶事の前触れと考えられ恐れられていた流星のことを「天狗」と語っていたらしい。

だが、その姿かたちを当時の人たちがどう考えていたのかを聞いて、私は驚かされることになる。

画像は中国古代の『山海経』掲載の天狗像- Credit:パブリック・ドメイン

天狗の姿かたちは人型ではなく「犬」のようなものだと考えられていたというのである。

言われてみれば、天狗は天の狗と書く。名前に「狗」の字が含まれている意味をこれまで気に止めたことがなかった。おそらく多くのUFO研究家もそうだったのだろう。

天狗=宇宙人説を主張する人々は、空から人型の存在がやって来たと古くから伝わってきたことを根拠としてきた。

だが伝説の元を遡ってみれば、そもそも天狗は人型ですら無かったのである。

空から雷のような音と共にやって来る獣の妖怪……久留島氏の話を聞いて私がまず思い浮かべたのは「雷獣」という妖怪だった。

雷と共に飛来するイタチの姿の妖怪と天狗を結び付けて考えたことは無かったが、両者には何か関係があるのかも知れない。

では、天狗はどのようにして私たちのよく知る姿へと変わっていったのだろうか。

「日本書紀」に登場していた天狗であったが、その後は長い間、天狗について日本で語られることは無かった。中国で語られる天の狗としての天狗は日本では定着しなかったのだ。

日本の仏教説話ではいつの間にか、仏の道を究めようと修行する人間を誑かして邪魔をする、西洋でいうところの悪魔のような行いをする者を「天狗」だということになった。

元々は凶事を告げる不吉な存在であった天狗に、神秘的なイメージも纏わりつくようになった。

鎌倉時代の終わりごろから室町時代にかけて、「天狗」について積極的に語ったのは山で修行する山伏たちだった。

山で修行を続けることで、天狗の力を身に付けることが出来ると説明するようになったのである。

とはいえ、天狗の伝承は各地でばらつきも当然ある。

神様のように伝えられる場合もあれば、妖怪として語られることもある。

その姿かたちもバリエーションがあり、長い鼻を持った天狗の他には、カラスのような顔をした烏天狗が有名だ。

日本では狗の要素は無くなったが、天のイメージだけはどの天狗にも引き継がれ、どの天狗も空を飛ぶという特徴は持っている。

烏天狗の面

鳥の顔を持った天狗のほうが、人の顔をした天狗よりも前から登場している。ただし、最初の頃はカラスではなく、鳶の顔をしていた。鳶からカラス天狗に変わった時期は具体的にはまだ分からないという。

ただ、天狗がどんどん人の顔に近付いて行った理由は「鞍馬天狗」などの影響だと考えられている。

天狗の登場する話が能の演目として登場し続けていくうちに、より観客が感情移入しやすいように擬人化されていったのだ。

なお、私たちが天狗と聞いてまず真っ先に思い浮かべる長い鼻を持つ天狗がはじめて登場したのは、安土桃山時代の絵師狩野永徳が鞍馬天狗を描いたものであったといわれる。

誰もがその名を知っている妖怪、天狗。

だが、久留島氏の話を聞いて、私は本当に天狗の表面的な部分しか見ていなかったことに気付かされた。

今回の取材には私から声をかけて、日本で唯一「妖怪文化論」なる授業も開講されている京都学園大学に通う大学院生の石井辰弥さんにも同行してもらった。

石井さんは以前、私がテレビ番組で発表したUMAに対して、民俗学的にアプローチして仮説を考え出した人物であった。

京都で天狗を調べることになり、是非一緒に久留島氏の話を聞いてもらいたかったのだ。

石井さんは「天狗がいるとされている山は全国にあります。各地でどのような信仰や天狗以外の伝説を持っているのか、自分も調べてみようと思います」と私に語ってくれた。

天狗や妖怪は長い時をかけて姿や特性を変えていった。

その謎を解き明かすためには、今後も多くの人たちが長い時間をかけて、妖怪に対してアプローチを続けていく必要があるのだろう。

意外なことに21世紀に入ってからも、天狗の目撃事件は時々起きている。私はUMAの専門家なので、現代人が見たという天狗の正体を探っていくのが急務である。

ただ、天狗を目撃した人たちは、赤い顔で長い鼻を持った天狗の姿は後になって生まれたものであることを果たして知っているのだろうかとも、私は思わずにはいれなかった。