人によってカモにも見えるしウサギにも見える絵が、なんと料理に。ウサギ肉と鴨肉入りの料理の味は、絵の認識の違いで変わるだろうか?そんな実験が現在進行中だ。
カモかウサギか
ジョセフ・ジャストロー博士は1800年代終わりから1900年代初頭にかけて活躍した有名な実験心理学者だ。彼は視覚の認識に興味を持ち研究した。そんなジャストロー博士の研究の中でも知られるのは、「カモに見えたりウサギに見えたりする絵」だろう。
この絵は見るものの持つ個人的背景や心理状態などにより何が見えるか変わるというもの。例えば鴨狩りが好きな人にはカモに見えるし、ウサギ好きな人にはウサギに見える、と言ったものである。しかし、一度に認識できるのはカモかウサギのどちらかで、両方が同時に認識されることはない。これを「双安定知覚」(bistable precept)と呼ぶ。
料理の見た目で味は変わるか?

オックスフォード大学の実験心理学者チャールズ・スペンス(Charles Spence)教授と、ミシュランレストランなどでの経験も豊富なシェフ、ヨセフ・ヨーゼフ(Jozef Youssef)らによる実験的なガストロノミーデザインスタジオ「キッチン・セオリー」(Kitchen Theory)はそんなカモ/ウサギの絵に新たな次元を付加した実験を行おうとしている。
この絵を料理に、絵の認識の違いが味の認識を生み出すことができるかを探ろうというのだ。
料理皿には例のウサギ/カモの絵がブラッドオレンジのソースで描かれ、ジャストロー・バイステーブル・バイト(Jastrow Bistable Bite)と名付けられたウサギ肉と鴨肉が入った料理が乗っている。
スペンス教授がテレグラフ紙に語るところによれば、絵の認識が変わることで、口の中の味の感覚の違いも数秒の後に感じられるのではないか、と考えている。人はこの絵を認識する際、最初はどちらかの動物の認識が強い状態だが、ある時点でもう一方の動物としても認識できることに気づく「アハ!」瞬間がやってきて、それ以降は脳がその認識を交互に行うという。研究で気になっているのは、このアハ!の後同味の認識が変わるか、ということ。また、アハ!という目の錯覚への気づきそのものが脳の報酬系への刺激となり、体にホルモンを出すことで、味がより美味しく感じられるのではないかともしている。
この研究の一部はInternational Journal of Gastronomy and Food Scienceオンライン版で4月30日に公開されている。今後の研究で料理から識別する見た目と味の関わりが研究されるのが楽しみだ。