Credit : markusspiske / Pixabay

多毛の副作用を逆手に!画期的な脱毛症の治療薬

もともと骨粗鬆症の治療に使われてきた薬『WAY-316606』が、毛髪の育成にも効果があると認められた。脱毛症に効く画期的な新薬の開発が期待できそうだ。

研究を発表した英マンチェスター大学のネーサン・ホークショー博士は、WAY-316606が段階的な治療薬であり、脱毛症を治す特効薬ではないと前置きしつつも、「脱毛症に苦しむ人々に大きな変化をもたらすかもしれない」とコメントしている。

研究は初期段階にあり、これから臨床実験を重ねて薬の効能と安全性を確かめていく必要があるので、実際使えるようになるまではまだまだ時間がかかりそうだ。

 

新しい視点

性別や国籍に関係なく、脱毛症は辛いもの。人の視線が気になって気分がふさいだり、自信や自己肯定感の喪失につながることも多い。

男性型脱毛症(AGA)に悩む多くの人が治療を望んでいる中、現在手に入る薬はミノキシジルとフィナステライドのみだ。どちらにも軽度の副作用があり、必ずしも毛髪の再生につながらない。残されたオプションといえばウィッグか毛髪移植しかない。

新薬の開発が急務と考えたホークショー博士は、既存の薬で毛髪の育成に関係があるものに注目した。それがシクロスポリン(Cyclosporin A)だ。免疫抑制剤として1983年に販売開始され、主に臓器移植における拒絶反応の抑制に効果がある。

頭痛、嘔吐、高血圧など数ある副作用の中に多毛も含まれているが、いままでシクロスポリンが毛髪の育成を促すメカニズムは詳しく解明されていなかった。そこで、ホークショー博士らは遺伝子発現解析を実施して、シクロスポリンがヒトの毛包内でどのように作用するのかを調べた。

Credit: Dr. Nathan John Hawkshaw / University of Manchester

 

ブレーキを外す効果

上記の画像はヒトの毛包に色付けした写真。青い部分が細胞の核で、ここで毛髪がつくられる。ホークショー博士は毛髪移植の患者40名から毛包を寄付してもらい、シクロスポリンを投薬して毛包内の変化を詳細に解析したところ、SFRP1と呼ばれるタンパク質が減少することをつきとめた。

SFRP1には細胞の組織の育成を妨げる働きがある。毛包の場合、毛髪をつくる細胞の育成をも妨げる。すなわち、毛髪を育成する細胞の育成にブレーキをかけていた成分を抑制することで、シクロスポリンが間接的に毛髪の育成を促していたのだ。

しかし、シクロスポリンを治療薬として使うにはあまりにも副作用が多すぎた。そこでホークショー博士が同じようにSFRP1を抑制する働きを持つ薬を探したところ、骨粗鬆症の治療薬であるWAY-316606にたどり着いた。

WAY-316606を毛包に投薬してみたところ、2日後には毛幹の伸びが確認された。同じ効果に数日を要したシクロスポリンよりも効果的とかもしれない。しかも、副作用がまったくないときている。

Credit: Nathan J. Hawkshaw et al.

培養されたヒトの毛包を使ってシクロスポリンとWAY-316606の効果を調べた研究は今回が初めてだという。以前はマウスを使ってシクロスポリンの多毛化の効果を調べた研究もあったそうだが、まったく違うメカニズムを提唱しており、そこから人間への影響を導き出すことは困難だった。

今回はWAY-316606の有効性だけでなく、シクロスポリンがどのような分子経路を使って作用しているかを特定した成果は大きい。脱毛症の治療薬としては使えないかもしれないが、シクロスポリンの副作用を理解する上で重要なステップとなるだろう。

RELATED POST