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子どもの頃の逆境を乗り越えたアーティスト、より鮮明で力強い創作活動をすると判明

ある統計によると、世界中で年間4,000万人以上の子どもが暴力やネグレクトなどの被害に遭っているという。子どもが犯罪に巻き込まれる痛ましいニュースが後を絶たず、深い傷を負った幼い心を想うと思わず目をそむけたくなる。

そんな状況を真正面から据え、15年以上の研究を積み重ねてきたふたりの心理学者が、子どものころの辛い経験が成人してからの創造性にどのように影響するのかを紐解いた。このたび学術誌『Frontiers in Psychology』に発表された論文によると、幼少期に辛い目に遭った人ほど創作活動に没頭しがちで、クリエイティブであることに深い意味を見出す傾向にあるという。

 

取り返しのつかない過去

小児期の逆境的体験(Adverse Childhood Experiences = ACE)という言葉がある。フェリッティとアンダが2010年に定義したところによれば、精神的虐待、身体的虐待、性的虐待、感情的ネグレクト、身体的ネグレクト、両親の離婚や別居による家庭崩壊、DVによる家庭崩壊、薬物中毒による家庭崩壊、精神的病理による家庭崩壊と、親や親族の投獄による家庭崩壊――の10項目にわたる。一つ以上の項目が同時に体験されるケースも少なくないという。

幼少期にこのような辛い体験をすると、大人になってから精神的な病理に悩まされる確率が高くなるほか、死亡率が高くなるという研究結果もあるそうだ。加えて不安がつきまとい、自信を喪失するといった人格形成においてのハードルも高くなってしまう。

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職業柄、一般大衆にその身をさらし、常に批判のリスクを伴うパフォーマンス・アーティストにとっては、輪をかけてリスクが高くなるのではないか。そう考えたアメリカ・カリフォルニア州立大学ノースリッジ校のポーラ・トムソン教授と、カナダ・ヨーク大学のヴィクトリア・ジャック教授が、234人のパフォーマンス・アーティストたちと長い年月をかけて信頼関係を築き上げ、彼らのACEについて調べた。

当初ふたりの研究者が打ち立てた仮説はこうだ。パフォーマンス・アーティストが小児期に体験したACEが多ければ多いほど、大人になってから不安、恥、トラウマなどの精神的に困難な状態に陥りやすく、仕事をするうえで不可欠な創造性に悪影響を及ぼすのではないか。

しかし、結果はその仮説をくつがえすものだった。

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より濃密な創作活動

研究の対象者は俳優・監督・デザイナー計83名、ダンサー129名、ミュージシャン・オペラ歌手計20名。回答はすべてアンケートにより自己申告で行なわれ、以下の7つについての情報が集められた。

小児期の逆境的体験(ACE)
フロー体験
創造的プロセス
内面化された恥
小児期の記憶
不安
トラウマ

 

それぞれが体験したACEの数に基づいて、ACE体験がなかったグループと、ACEを1~3度体験したグループ、ACEを4度以上体験したグループに分け、ほかの項目に対してどれだけあてはまるか多変量共分散分析(MANCOVA)と呼ばれる統計処理を行った。

その結果、小児期に4以上のACEを経験したパフォーマンス・アーティストは、ほかのグループよりも鮮明で力強いクリエイティビティを体験していることがわかった。

4以上のACEを体験したグループは、創作活動において一時的に我を忘れてしまうぐらい没頭し、意識が高次元に飛び、また感情的な高まりとともに感情的な安定を同時に得られる確率が平均よりも高かった。これはより自らの創造的プロセスを意識し、深化させている結果だとみられている。さらに、創作活動がただ単になにかを創り出す作業ではなく、自らの存在意義に直結していると考える人が多かったという。

 

明るい未来に向かって

その反面、小児期のトラウマを多数抱えたパフォーマーたちは多くの精神的なハンデを持っていることもわかった。常に不安と戦い、恥を内面化し、大人になってから新たなトラウマを経験する確率も多かった。現実逃避しがちな性格も共通して見られた。

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それらのマイナス要素を上回る創造力を、トムソン教授とジャック教授は「クリエイティブ・リジリエンス」と呼んでいる。新しい歌や演劇、ダンスやデザインを創り出すことで自分自身を癒し、存在意義を高めていく。

従って、創造性に富んだ活動がいかに大切か、そして学校で早い段階からそれらの「クリエイティブ・リジリエンス」を生み出す術を教えていく重要性をも示唆している。そしてパフォーマーやアスリートを目指してトレーニングを積むうえでも、過酷な競争や叱責にさらされがちな若者の訓練環境も見直すべきだと提言している。

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