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人の第六感を創り出すデバイス登場!様々な分野での活用期待

願い通りの「第六感」を手に入れられるとしたら、あなたはどんなことを感じ取りたいだろうか。顧客満足度?空気中の酸素濃度?それとももっと大きいスケールで世界の経済活動?

米スタンフォード大学の非常勤教授、デイヴィッド・イーグルマン博士(神経科学)が、まさに「第六感」というべき振動の感覚を生み出すチョッキ型のウェアラブルデバイスを発明し、話題を呼んでいる。

人の声だけでなく、株価の変動や血圧の変化、道路の混雑状況、SNSへの反応…あらゆる情報を振動で表し、着用している人に複雑な振動のパターンで伝える。あまりに複雑なので意識的には理解できないが、数週間着用し続けるうちに脳が無意識のうちにパターンを理解するようになり、やがては情報を感じ取れるようになれるという。

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シナスタジア、あるいは共感覚

「1」はオレンジ色、「3」は緑色…というように、数字や文字が特定の色で表れたり、色に音を聞いたり、言葉に味を感じたり。ふたつ(もしくはそれ以上)の感覚が合わさって感じられる特別な知覚、それがシナスタジア(synesthesia)だ。共感覚とも言われる。

このシナスタジアに魅了されたイーグルマン教授は、長らく遺伝的なメカニズムと脳科学的なメカニズムの両方向からその秘密を解き明かそうとしていた。研究のために協力を得た共感覚者はのべ2万人以上だったという。

そしてSmithsonianいわく、シナスタジアの研究が明らかにしたことがあったとすれば、それはいかに人間の知覚が客観的に現実を捉えていないかだった。すなわち、脳が「現実」と知覚しているのは、脳が五感を頼りに構築している推測でしかないということだ。

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イーグルマン教授自身はこのように表現している。脳は外部と完全に遮断され、真っ暗な頭蓋骨のなかに存在している。脳はいかなる方法でも直接外部の様子を見たり、聞いたり、触ったり、味わったり、嗅いだりすることはできないので、それらの五感を通して伝わってきた電子信号を処理してパターンを見出し、情報として理解して現実を部分的に推測するしかない。

一見、研究が頓挫したかのようにも思えるこの結論。しかしイーグルマン教授にはもっと包括的なヴィジョンがあり、この結論はさらに斬新な研究に飛び火した。彼の新しい着目点はこうだ。脳が五感から得た情報だけを頼りに「現実」の姿を推測しているのであれば、脳に五感以外の新しい感覚を与えればより詳細で奥行きの深い「現実」を体験できるのではないか?

そしてその第六感とでもいうべき新しい感覚を生み出すように開発されたのが「VEST(Versatile Extra-Sensory Transducer)」だ。

第六感を作り出すベスト

イーグルマン教授の商標登録された発明品「VEST」は、その名の通りふつうのベストに見えるが、胴回りをぐるりと囲むようにとりつけられた振動モーターがあらゆるデータに反応して複雑に振動する。APIをオープンソース化しているため、個人的に取り入れたい情報をカスタマイズできるそうだ。

例えばまわりの音響を振動モーターを使って強化することで、聴覚障害者に館内放送を伝える。または、変動が気になるいくつかの株の銘柄を振動として感じることで、より的確に株の売買を行う。使い方は想像力次第だ。

イーグルマン教授は、時間の経過とともにこの振動もあたかも自然に備わっている感覚のようになると推察している。「VESTの振動パターンは五感のように無意識なものになるだろう。どのように感覚として捉えられるのかはわからないが、意識的、または認知的な行動ではなくなるだろう」と話している。

聴覚障害者の「耳」になる

最大のユーザー層と見込まれているのが聴覚障害を持った人だ。すでにVESTの小型版の「BUZZ」という腕輪型ウェアラブルデバイスを試してみたユーザーからは上々の評価が上がってきているようだ。

人の声だけではなく声色まで伝わったり、遠くで玄関のドアが閉まったり、家族が部屋に入ってきたり――そのような今まで聞きたくでも聞こえなかった音が、しっかりと振動とともに脳に伝達されるようになったという。

なにより、聴覚を取り戻す最適な手段として使われてきている人工内耳は手術を要し、多額な費用もかかる。そのおよそ40分の1のコストで手に入り、しかも好きな時に着脱できるVESTははるかに魅力的なオプションと言えるだろう。

我々の現実という体験は、我々の生態によって制限される必要はない。――デイヴィッド・イーグルマン

 

このようにテッドトークで発言している通り、イーグルマン教授はテクノロジーがどのように人間に備わった知覚を拡張し、それがどのように人間が経験している環境世界を変えるかに興味を持っているという。「拡張」されるのは第六感だけではなく、失われた感覚も含む。

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