Credit : Chitra Yamada

【現地取材】JAXA一般公開に学ぶ日本の科学技術の底力

宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)の航空技術部門を担う調布航空宇宙センターでは、毎年4月に施設を一般の来場者向けに公開している。ふだんは見ることのできない研究施設や装置を目の当たりにできる貴重な機会で、2017年度にはおよそ9,500人が来場した人気ぶりだ。

今年の日程は4月22日の日曜日。初夏を思わせる強い日差しの下、10時の開門前から多くの来場者が列を成すほどの盛況ぶりを取材してきた。

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なぜJAXAが一般公開を?

そもそもこの公開イベントはいつ頃から、どのような目的をもって開催され始めたのだろうか。

調布航空宇宙センターの広報によれば、一般公開のルーツはJAXAの前身である航空宇宙技術研究所(NAL)時代に文部科学省が始めた「科学技術週間」だそうだ。

文部科学省のウェブサイトを参照すると、毎年「発明の日」である4月18日を皮切りに、一週間にわたって全国各地の研究所、大学、科学館、博物館などが様々な催しを通じて科学技術について広く関心を深めていく取り組みで、1960年に制定されたと説明があった。調布航空宇宙センターにおける一般公開が何十年間ものあいだNAL、そしてJAXAに受け継がれてきた伝統であることが伺える。

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JAXAは2003年にそれまで独立していた宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)の3機関が統合されて誕生した。春の調布航空宇宙センターに続き、夏には宇宙科学研究所の相模原キャンパス、そして秋には筑波宇宙センターが公開される予定だ。

一般公開を通じてJAXAの仕事をより多くの人に知ってもらい、航空や宇宙に興味を持つきっかけになればと担当者は話す。調布航空宇宙センターの場合は会場が二つに分かれており、内容が豊富だ。リピーターも多く、過去にははるばる沖縄県から駆けつけた来場者もいたという。その最大の魅力は強いて言えば「文化祭」的な要素だろうか。

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「プロフェッショナルの文化祭」のような魅力

調布航空宇宙センターの一般公開では、展示内容や当日のプログラムはすべて各プロジェクトや研究ユニットに任されているそうだ。JAXA職員それぞれの専門性を活かして直接自身の研究をアピールできるのは、聞いている側、説明している側の両方にとってメリットが大きい。

第一線の研究を任されているプロフェッショナルから受ける説明は、情報だけでなく研究に対しての情熱も感じられ、より印象深いものとなる。質疑応答も非常に丁寧でわかりやすく、子どもでもどんどん質問できる雰囲気が自然に成り立っていて、校外授業のようなワクワク感があったようだ。

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とはいえ、お年寄りから赤ちゃんまで、幅広い年齢層にアピールできる内容を考え出すのはなかなか難しい。ましてやハイレベルな科学技術や研究成果をどのように一般大衆向けに説明するのかも大きな悩みどころだという。毎年新しいアイディアと経験を重ねていくうちに、各部署の人的・インフラ的リソースを最大限に活かした見ごたえのある展示内容となっている。

人気の「体験コーナー」

数ある展示のなかでもひときわ人気が高いのは、やはり参加型の「おもしろ体験コーナー」だ。

第2会場で行われた「高速度カメラの世界」の体験コーナーでは、1秒当たり1万枚のフレーム数で捉える超スローモーションの視点から、シャボン玉や水風船が割れていく様子をじっくりと観察できた。

リピーターも楽しめるように毎年工夫を重ね、過去には氷が砕ける様子、線香花火が燃えつきる様子や、蛍光灯の光を可視化したそうだ。子どもはもちろんのこと、大人も思わず歓声を上げてしまうほど美しい映像を見ることができた。子どもたちは水風船をキリで突いたり、シャッターボタンを押す機会を与えられ、最後まで挙手が絶えない盛況ぶりだった。

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同じく第2会場に設置された「飛行シミュレータ操縦体験」も大変な人気だった。

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映像、音、振動や傾きを組み合わせた本物そっくりのコクピットに座り、操縦桿を握って飛行機を羽田空港の滑走路に着陸させる一連の作業を操縦のプロに手ほどきしてもらえる。毎年長蛇の列ができる看板アトラクションで、集まる年齢層もさまざまだ。

一般公開は朝10時スタートだが、10時15分の段階でフライトシミュレーターの列はすでに3時間超をマークしていた。

ちなみに操縦はできないがコクピット内に立ち入って見学だけできるオプションもあり、こちらは30分ほどの待ち時間で参加が可能だった。コクピット内の臨場感を体験しつつも待ち時間のイライラが解消されるので、小さいお子さんと来場した方にはこちらがおすすめだ。

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操縦体験がこれほど人気な理由は、やはりここでしか体験できない「リアルさ」だろう。コクピット内に足を踏み入れた瞬間、室内の暗さと緊迫した雰囲気も相まって、軽いめまいが襲う。スクリーン前方に映し出される滑走路を全員が固唾を飲んで見守りながら、機体があたかも前方に押し出されているかのような錯覚を覚える。

操縦体験の見学を終えた頃には、ここでしか体験できない非日常体験を経て、航空技術がより身近に感じられるようになっていた。

丁寧な基礎研究に裏打ちされた成果の数々

ここでしか体験できない、という意味では日本が世界に誇る最先端技術の研究も見逃せない。

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上の画像は今年初公開となったマッハ5で作動する極超音速予冷ターボジェットエンジン。通常の飛行機のスピードを6倍ほど上回り、これを搭載した極超音速旅客機が実現すれば東京からニューヨークまでたったの2時間で移動できるという。

極超高速飛行に伴う課題について、極超音速技術セクションの研究領域主幹を務める田口秀之博士のレクチャーを伺った。

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マッハ5飛行時にエンジンに流入する空気温度は1,000℃にも達するため、従来のエンジンは作動することができない。その熱された空気を冷却する機能を持つ極超音速予冷ターボジェットエンジンは、すでに風洞実験を経てその効果を実証されている。

JAXAでは2025年を目途にマッハ5クラスのエンジンを搭載した極超音速旅客機を実現する方向で開発を進めている。ゆくゆくは日帰り海外旅行も可能になるばかりでなく、極超音速予冷ターボジェットエンジンの持つ莫大な推進力を活かして宇宙空間に飛び出せる「スペースプレーン」という画期的な新しい旅客機の開発も視野に入れているそうだ。

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それだけではない。JAXAは、ソニックブームを軽減する研究において世界最高レベルの研究を行っている。米航空宇宙局(NASA)が現在ロッキードマーティン社と組んで開発を進めている低音響実験機(Low-Boom Flight Demonstrator, LBFD)に先立つこと2年前、すでにソニックブームの大音響をノック程度の音に軽減する実験に成功しているという。

これだけの最先端技術を次々と編み出しているJAXAの底力が、いかに丁寧な基礎研究に裏打ちされているかを実感できるのが一般公開の最大の魅力だと思う。基礎研究から開発、そして実用化に至るまで一貫して行っているJAXAだからこその強みだ。

技術者ではないからといってJAXAの研究とは決して無縁ではない。2015年4月から国立研究開発法人として再スタートを切ったJAXAを部分的に支えているのは一般市民の税金だ。納税者としてJAXAの研究の必要性を声高にすることも、更なる研究開発に直結するのではないだろうか。

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子どもたちに関して言えば、調布航空宇宙センターの一般公開を通じて大小さまざまな気づきがあったようだ。一番大きかったのは、頭上に広がる青い空が、そのまま宇宙につながっていると初めて知ったこと。

世界が広がった。そういうとあまりにも平凡なのだが、本当にそれを心と体で実感できたようだ。

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