Credit : Getty Images- バジャウと同じく「海の遊牧民」と呼ばれるタイのモーケン族の男性

「海の遊牧民」の驚異的な潜水能力、遺伝子の突然変異がもたらした進化だった

人間は極端な生活習慣を何世代にもわたって続けると、遺伝子に変化が起こり身体的に進化することがDNAレベルの研究で初めて証明された。

極端な生活習慣とは素潜りだ。ZME Scienceによれば、「海の遊牧民」の異名も名高いインドネシアの少数民族バジャウ(Bajau)の人々は、槍と、重石と、木製のゴーグルだけを持って水深70メートルという驚異的な深さまで潜れる。科学的には裏付けされていないが、一説によれば一息で最長13分間も潜っていられる凄腕の漁師もいるという。バジャウの人々はこのように魚を獲って生計を立てる暮らしを何千年も営んできた。

コペンハーゲン大学の博士課程を就学中だったメリッサ・イラルドは、ひょっとしたらバジャウの人々の卓越した潜水能力は身体が進化した結果かもしれないと仮説を立てた。しかし当時彼女の研究を監修していた二人の教授には受け入れてもらえなかったという。

というのも過去に失敗した前例があったからだ。バジャウと同じく「海の遊牧民」と呼ばれるタイのモーケン族の子どもたちについて調べた2006年の研究では、水中での彼らの驚くべき視力になんら遺伝的な要素を発見できなかった。

それでも反対を押し切って研究を進めたイラルド博士は、結果的に大きな成果を成し遂げた。博士論文の研究ではバジャウの人々が持つ突然変異の遺伝子「PDE10A」を特定することに成功したのだ。遺伝的適応が人間に認められたのはこれが初めてだという。

マレーシアのバジャウの人々。海の上に建てた小屋や船の上で暮らす- Credit: Getty Images)

インドネシアのジャヤ・バクティで数カ月間の現地調査を行ったイラルド博士は、遺伝子検査を行った結果PDE10Aがバジャウ族のみに見られ、同じ地域に住んでいるサルアン族には見られないことを突き止めた。

PDE10Aは甲状腺ホルモン「T4」の分泌をコントロールする働きがあることもわかった。T4は、これまでにマウスを使った実験などで、脾臓の大きさに関連していることが解明されている。
脾臓はどのぐらい長く潜水できるかと直接関係している。人間が冷たい水に潜ると、まず心拍数が低下し、毛細血管が委縮し、脾臓も同様に委縮する。この時、脾臓は酸素を含んだ赤血球を血流に放出する。脾臓が大きければ大きいほどたくさんの酸素を提供してくれるので、結果的に長く潜っていられるのだそうだ。

バジャウの人々の脾臓の大きさを超音波検査で調べた結果、サルアン族よりも平均して50%も大きかったという。しかも日常的に素潜りをしているバジャウの人も、そうでない人どちらもが同様に大きな脾臓を持っていた。バジャウの民の卓越した潜水能力が、遺伝子レベルで解明されたのだ。

イラルド博士にとって今回の研究のヒントになったのはアザラシだったそうだ。潜水が得意なウェッデルアザラシは非常に大きな脾臓を持っているという。自然選択によってアザラシの脾臓が拡大したのなら、人間にも同じことが見られるのではないかと考えたそうだ。やはり人間も動植物同様、常に進化している。人間も大きな意味では自然の一部なのだ改めて実感できる研究結果だ。

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