Credit : J. LIU ET AL, PROCEEDINGS OF THE ROYAL SOCIETY B, 2018 via The Scientist

太古の生物の脳みそは、果たして脳みそだったのか…研究者の間で割れる意見

5億2000万年前、カンブリア紀の節足動物の「脳みそ」は、果たして本当の脳みそなのか?研究が疑問を投げかける。

フキシャンフィアの脳

フキシャンフィアはカンブリア紀に生息していたとされる節足動物で、その化石は珍しいものではなく、現在までに多くが研究されている。2012年にはアリゾナ大学の神経科学教授ニコラス・ストラウスフェルド(Nicholas Strausfeld)がNatureにフキシャンフィアの化石に脳のようなものを見つけたと発表。続いて彼は2014年にNature Communications、2015年にはCurrent Biologyでもこれに続く脳の研究を発表している。

脳かバイオフィルムか

しかし中国とドイツの研究者たちはこれに異議を唱えた。約800の化石を調査した研究者たちは、そのうち約10%の頭部にぐにゃっとした部分をみつけた。これらは特定の形があるわけではなく、研究者たちはこの頭部の構造は脳などではなく、微生物が形作る構造体「バイオフィルム」だとしている。

バイオフィルムとは、例えば口の中に形成される歯垢や、台所のシンクのヌルヌルなどのことだ。それが何故頭部にあるのかというと、フキシャンフィアの死後に内臓部に居たバクテリアが腸壁を破り出てこれを形作ったというのである。

また研究者たちは現代の節足動物の場合、死後脳と神経系は早く腐敗するとしており、化石として残ることは無いだろうとしている。この研究は4月11日のProceedings of the Royal Society B: Biological Sciencesに発表されている。

バイオフィルムか脳か

 

Ma X. et al. (2015): Preservational Pathways of Corresponding Brains of a Cambrian Euarthropod. Current Biology, October 29- 3つの標本に共通する脳の部位を示すストラウスフェルドらの2015年の研究

しかしLive Scienceによればこの研究に対して懐疑的な意見を述べる研究者もいる。カンブリア紀の「Kerygmachela kierkegaardi」という生物の化石の脳を研究史Nature Communicationsに発表している純古生物学者ヤコブ・ヴィンター(Jakob Vinther)は、フキシャンフィアからカンブリア紀の化石の中で最初に脳が見いだされて以来他の化石からも脳が見つかっている状況で、後続の研究を否定することなしにこのパラダイムを築いた研究を否定するのは理に適っていないなどとしている。

ストラウスフェルド自身もLive Scienceに対し、この研究では左右非対称であからさまに脳ではないものが対象になっているが、彼の発表している研究の対象となった化石では「視細胞葉の神経束も、脳の繊維路の証拠も分割できる」としている。またストラウスフェルドは節足動物の死後、すぐに泥と海水の混ざった懸濁液(けんだくえき)に埋まり、その後圧力がずっとかかった状態であれば神経組織も保存されるとしている。

同じくLive Scienceに語るゲント大学の純古生物学者ペーター・ヴァン・ロイ(Peter Van Roy)は、この研究でストラウスフェルドが研究した脳があるとされる化石が対象になっていないことを指摘、これは「大きな欠点」だとしている。

同時にヴァン・ロイは考古学者たちは生物の化石に「脳を見つけた!」と考える前にもっとちゃんと調べる必要性を指摘するものだとも語っている。

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