操縦席のヒエラルキー…知られざる飛行機事故の要因

旅客航空機の事故は年々下がっている。それでは事故はどんなときに起こるのかと言えば、その70%は人為的な要因によるものだ。The Conversationではフランス国立宇宙航空学校の博士研究員イヴ・ファーブル(Eve Fabre)が、人為的な要因の中でも操縦席内での人間関係が原因による事故と対策について紹介している。

操縦席内の人間関係
操縦席内の人間関係と言っても、フライトアテンダントと機長、副操縦士を巡る三角関係などと言った下世話なものではない。機長と副操縦士との関係だ。通常旅客航空機では機長ひとり、副操縦士がひとりまたはふたり存在する。機長は飛行技術を備えるのは当然として、副操縦士よりも経験を積んだパイロット、フライトの法的責任を担う役割もあり、飛行に当たって重要な存在だ(もちろんその分給料も高いわけだが)。

機長は離陸前に誰が機体の操縦を行い、誰が計器をモニタリングする役割を負うのかを決定する。この機長と副操縦士との間には明確な力の上下関係、パワー・インバランスが存在するのだ。

認知バイアス
力のある立場にいる機長は、認知バイアスの影響を受けやすい。認知バイアスとは、その人が持つ一部の性質(人種、性別、職業、宗教、など)や、現在とは無関係の過去の出来事による影響を受けてその人を判断してしまうというもの。

ファーブルによれば、この認知バイアスが起因で惨事となった例として、2011年のファーストエアー航空の6560便墜落事故を挙げている。この事故では副操縦士が進行方向がずれていると再三警告を行ったにもかかわらず、機長はこれを聞かず、最終的に機長と副操縦士を含む12人が墜落により死亡している。この機長は事故の起きた北極付近でこれまでに飛んだ経験が豊富であったこと、以前にも似たような計器の狂いがあったが無事着陸していたこともあり、経験が浅い副操縦士の意見を重く受けとめなかったようだ。

独裁機長と何も言えない副操縦士

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また、機長が権威主義的である場合も危機的な状況では事故に繋がる可能性がある。力の上下関係を強調するような機長であれば、副操縦士はなにか良くないことが起きていても指摘しにくくなるのだ。

1999年に起きた大韓航空の8509便墜落事故がその例としてファーブルにより挙げられている。この事故では機長は元大韓民国空軍のパイロットでコワい人物であった。副操縦士は機長の置かした重大なミスに気づいたものの、恐怖から何もせず、航空機は離陸60秒後に墜落、乗っていた全員が死亡している。この件は機長のみが悪いとは言えないだろう。

このような力の問題は機長だけにあるのではなく、副操縦士もパワー・インバランスの影響を受けるとファーブルは指摘している。70年代に行われた研究によれば、フライトシミュレーター中で着陸時に機長が意識を失った(フリをした)際に、副操縦士の僅か4分の1しか操縦を引き継ぐことができなかったという(Harper CR. et al. 1971)。これは特定の状況下で副操縦士はそれほどフライトに関与しておらず責任も感じることができていないことを示しているされる。

ヒエラルキーをなくせば解決?
しかしファーブルはこのような機長、副操縦士との力の構造をなくすことは解決にはならないとしている。『ハドソン川の奇跡』として映画化された2009年のUSエアウェイズ1549便不時着水事故や、2010年のカンタス航空32便エンジン爆発事故では操縦席内のヒエラルキーが上手く働いた例で、どちらも死亡者は出していない。

ファーブルはヒエラルキーが無い状態での悪例として、2009年のエールフランス447便墜落事故を挙げている。この事故では操縦席に機長がいない状況で問題が発生し、副操縦士二人が真逆の操縦を行っている。これにより航空機は墜落、乗客乗員全員死亡している。

大切なのは…

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ファーブルは、操縦士間のコミュニケーションをより良くすること、そして副操縦士がきちんと主張できる状況が何よりも重要だとしている。操縦士養成の段階でこれらのことをキッチリ教えることでヒエラルキーが存在する中でもきちんと問題を指摘したりでき、それが乗客乗員の安全に繋がると言うことだ。

Are there two pilots in the cockpit?(The Conversation)

Study of simulated airline pilot incapacitation: phase II. Subtle or partial loss of function.(NCBI)

AVIATION INVESTIGATION REPORT A11H0002(Transportation Safety Board of Canada)

AIRCRAFT ACCIDENT REPORT 3/2003(Department for Transport UK)