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タスマニアデビルを救う最後の望みは人間の治療薬か…イギリスとタスマニアの共同研究

オーストラリアのタスマニア島にしか棲息していない世界最大の肉食有袋類、タスマニアデビル。タスマニア州政府を象徴する動物として親しまれ、過去には北米のアライグマや日本のタヌキのように出没率の高い野生動物だったのが、いまや絶滅の危機に瀕している。

原因は致死率100%の感染性がん。顔面腫瘍が個体から固体へと感染する。この恐ろしい病気を食い止めるためにこれまで様々な介入が試みられたが、どれも効果は上がらなかった。意外にも、最後の希望は人間用の治療薬かもしれない。

人間の薬を動物に転用

イギリスとオーストラリアの共同研究チームが2018年4月9日付で学術誌『Cancer Cell』 に発表した論文によると、タスマニアデビルのがんの増殖には受容体型チロシンキナーゼと呼ばれる酵素が大きな役割を果たしているとわかった。

さらに、受容体型チロシンキナーゼを抑える人間用の薬を使った実験で、タスマニアデビルのがん細胞の増殖を抑えることに成功したという。

今後この薬を野生のタスマニアデビルに転用すれば、がんを抑制できるかもしれない。20年以上にわたる感染性がんとの不毛な戦いの中で、唯一タスマニアデビルを救い得る希望の光が見えてきた。

不毛な戦い

国際自然保護連合(IUCN)のウェブサイトを参照すると、タスマニアデビルは感染性がんの影響を受けて過去10年で6割も減少していることがわかる。絶滅危惧IB類に定められており、このままいけば15年から30年の間に絶滅する危険性が高いという。

ZME Scienceによればがんが初めて確認されたのは1996年。タスマニア島の北東部のメスの個体に突然変異した細胞が現れ、顔の噛み傷によって瞬く間に島中に広まった。ほぼ100%という驚異的な致死率に加え、体が外部からの侵入者だと認識しないために免疫反応がまったく起こらない。感染性のがんは自然界でも稀で、知られている治療法は皆無だった。

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2014年には別のオスの個体からほぼ同じ感染性のがんが広がりはじめ、さらにダメージを深めることに。タスマニアデビルは獲物の取り合いや繁殖期に先立って個体同士が戦うたびに、顔に受ける傷ががんをまん延させた。タスマニアデビルの遺伝的多様性が非常に低いこともさらに状況を悪化させた。

2016年には一部のタスマニアデビルの個体に抗体が確認されたが、がん腫瘍の遺伝子情報にも変化がみられたそうだ。一般的に病原体のほうが速く進化するため、いたちごっこに過ぎないとの見方もある。

さらに悲しいことに、抗体を得たおかげでがんにかかっても生き延びた個体も、車の事故に遭い死んでしまったケースもあったそうだ…。IUCNによると年間自動車事故で命を落とすタスマニアデビルの数は約2,205匹。さらに人間が持ち込んだイヌやキツネなどの動物に殺されるケースも後を絶たない。天災に人災を重ね、非常に憂慮すべき事態となっている。

生き残る道

タスマニアデビルは別名「フクログマ」とも呼ばれ、フクロオオカミとともに世界最大級の肉食有袋類だった。ヨーロッパ人がタスマニアに入植した当時はタスマニアデビルもフクロオオカミも多く繁殖していたが、その後フクロオオカミは絶滅の道をたどった。

タスマニアデビルに残された道はフクロオオカミと同じく絶滅なのか、それとも生存か。皮肉にも、当初絶滅の道へと追いやった人間の手を借りなければ、タスマニアデビルは絶滅を免れない。

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Sarcophilus harrisii (IUCN Red List)

Human drugs could help cure the transmissible cancer that is wiping out Tasmanian devils (ZME Science)

Tasmanian devils developing resistance to horrendous infectious face cancer (ZME Science)

Sympathy for the devils (Phys.Org)

To Lose Both Would Look Like Carelessness: Tasmanian Devil Facial Tumour Disease (PLoS Biology)

The Origins and Vulnerabilities of Two Transmissible Cancers in Tasmanian Devils (Cancer Cell)

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