シャコの目を模した最新水中カメラ、生態系の謎に迫れるか

人間の目にはどこまでも青く映る海も、魚の目には鮮やかな極彩色の世界が広がっているそうだ。

そんな魚の目の特徴を活かした水中カメラをつかって、アメリカのイリノイ大学が今までにない全地球測位(GPS)システムの開発に成功した。偏光感度と日付と時刻の情報から太陽の位置を割り出して、衛星から送られてくる電波に頼らずとも海の中や湖の底で地球上の位置関係を把握できるという。

誤差が61㎞もあり実用までにはまだ時間がかかりそうだが、ゆくゆくは沈没船の探査や海底マッピングに使えるだけでなく、海洋生物がどのように海の中で自分の位置関係を把握しているのかに迫る革新的な技術だ。 

シャコの目になる

5億年前から地上での生活に適応してきた人間の目と、水中の暮らしに特化した魚の目との決定的な違いは偏光感度の有無。画像でくらべてみるとその違いが明らかだ。

Credit: Missael Garcia et al. via Optica

左側が人間の視点、右側が偏光感度を持つ魚の視点。偏光度が低い部分は青で、偏光度が高い部分は赤で示されている。

イリノイ大学のヴィクター・グルヴ教授(電子工学・コンピューター科学)によれば、海洋生物は人間には感知できない偏光度を使ってコミュニケーションを取ったり、獲物を探したり、大海原を迷うことなく移動しているそうだ。

海洋生物のなかでもシャコ(mantis shrimp)は卓越した視力の持ち主。人間の目は赤、緑、青の三原色しか感知できないのに対して、シャコはなんと16色を感知し、6つの偏光チャンネルを持ち合わせている。そこでグルヴ教授がシャコの目を模して作ったのがこの「Mantis Cam」だ。

ひらめきが導いた新型GPSの開発

Mantis Camを使って海中撮影していたグルヴ教授は、ふとあることに気づいた。場所や時間の変化に応じて偏光度に変化がみられたのだ。今までの科学の常識をくつがえす観測だったが、識者からは水中カメラの不具合のせいにされたりとなかなか信じてもらえなかったという。

Mantis Camの技術に自信を持っていたグルヴ教授は、偏光度の変化は別の理由にあると仮説を立て、それが太陽の位置に由来していることを突き止めた。さらにそのひらめきを逆にたどって、偏光度の変化を使って地球上の位置関係を割り出すシステムを考えついたそうだ。

電子コンパスと地球の傾きを計る装置とを取りつけたMantis Camを携えて世界中の海や湖を渡り、異なる深度で計測を重ねた結果、誤差は平均して61㎞あることもわかった。今後実用に向けて精度を向上していけば、Mantis Camは測定や探知に有効なだけでなく、海洋生物の生態の謎も解明してくれるかもしれない。

Credit: Samuel B. Powell et al. via Science Advances

海洋動物の移動の謎

グルヴ教授によれば、カメやウナギなどの海洋生物は何千キロにも及ぶ海を大移動する際に様々なセンサーを利用しているという。磁気、嗅覚などを感知する以外にも、偏光度を感知して航海に役立てているのではないかと教授は推察している。

ところが近代化と共に地球の空と海はどんどん汚染されてきている。海水汚染は水中の偏光度に変化をもたらしているのではないか。だとしたら、偏光度に頼って大海原を何千キロも移動している海洋生物にも影響しているのではないか?

クジラの群れが誤って浜辺に座礁する例は近年多く報告されている。海水汚染との関係を調べるためにも、Mantis Camの実用化が待ち遠しい。

Mantis shrimp-inspired camera enables glimpse into hidden world (University of Illinois)

Shrimp-inspired camera may enable underwater navigation (University of Illinois)

Bioinspired polarization vision enables underwater geolocalization (Science Advances)

Bio-inspired color-polarization imager for real-time in situ imaging (Optica)