人工知能が月面に6,000個もの新しいクレーターを発見

深層学習と呼ばれる一種の人工知能(AI)を使い、今まで人間の目で確認されていなかった月のクレーターを新たに6,000個発見したとトロント大学の研究者たちが発表した。 

研究に使われたコンピューターコードおよびにデータはすべてオープンソースで世界中の研究者に公開されている。今後は月だけでなく、環境の似ている惑星や小惑星のクレーターを調べるうえでも活用が期待できそうだ。 

手順の進化

トロント大学スカボロ校内に設置されている惑星科学センター所属の研究者、モハマド・アリ=ディブ氏によれば、これまで月のクレーターの数や大きさは“目視”という「かなり古めかしい手順」によって確認されてきた。 

「まず画像を見ながらクレーターの位置と数を確認し、次に画像の解像度からクレーターの大きさを計算する必要があった。AIを駆使してこのプロセスをすべて自動化することにより、時間と労力の両方を格段に効率化できた」とアリ=ディブ氏はトロント大学のインタビューに答えている。 

これまでも人間に替わってコンピューターにクレーターを探してもらうアルゴリズムはいくつか開発されていたが、いずれも効果的ではなかった。そこで、アリ=ディブ氏は同じく惑星科学センターを卒業したアリ・シルバート氏らと協力し、「畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network), CNN」を取り入れた新しいアルゴリズムに月面のクレーターを深層学習させ、新しいクレーターを探し出させることに成功した。 

特化型人工知能の威力

「ニューラルネットワーク」の名が示す通り、CNNは脳内のニューロンの働きをヒントに構築された画像認識に特化したAIだ。ニューラルネットワークに「畳み込み」というフィルター層を加えることで、より全体像を把握でき、比較的新しい画像認識法として注目を集めている。顔の認識システムや、自動運転技術などにも取り入れられており、その最大の利点はパターンを見出す力にある。 

ニューラルネットワーク全般に関してはNASAの説明が分かりやすいかもしれない。たとえば、子どもが「バス」という種類の乗り物を覚えたとする。この時、子どもは数台バスを見ただけでどういうものなのかを理解し、次にバスを見たときにはそれを正しく認識することができる。ニューラルネットワークも同様で、たくさんのバスを見せることでバスというものをパターン化することができる。コンピューターの場合は子どもよりもはるかに多くのバスを見て学習する必要があるが、一度学習してしまえば膨大なデータを素早く処理できる。

今回の研究では、まずCNNにクレーターを学習させるためにガリレオ衛星から送られてきた月面の三分の二の面積に相当する膨大な画像データが与えられた。次に、残りの三分の一の月面の画像を与えてクレーターを探し出させた結果、従来の目視方法で検出された数の倍のクレーターを見つけ出しただけでなく、小さすぎて人間の目には拾われなかった6,000あまりのクレーターも見つけ出したそうだ。

Credit: NASA

月面に刻まれた太陽系の歴史を探る

地球と違って月には大気が存在しないため、宇宙空間を浮遊している小惑星や彗星などとの接触が絶えずクレーターを形成している。加えて月には地殻変動もなく、雨風による風化現象もほぼ皆無なため、一度形成されたクレーターは長い間姿を変えずに残っているそうだ。ただし、古いクレーターの上に新たな衝突が重なると新しいクレーターができる。その重なりを調べることで、クレーターがどのぐらい古いかもわかる。今回の研究では古いものでは40億年前にできたクレーターも発見された。 

いままで人間には認識できなかったような小さなクレーターの位置、数や大きさを把握することで、太陽系が誕生したころの物質の分布や、そこで起こった物理的な現象について知ることができるそうだ。AIを駆使してさらに小さなクレーターを研究していけば、太陽系の誕生についてヒントが得られるかもしれないとアリ=ディブ氏はトロント大学のインタビューにて語っている。 

月のように大気を持たず、地殻変動と風化が穏やかな水星においてもCNNの活用が効果的だったようで、ゆくゆくはケレスやヴェスタなどの小惑星についても同様な手法で研究できると期待されている。 

 惑星ハンターとしても活躍

さらに、CNNは宇宙探索活動にも貢献している。2017年12月、グーグルとNASAが共同で開発したCNNが、ケプラー90とケプラー80という恒星を取り巻く惑星群のなかに、新しい惑星をそれぞれひとつずつ発見した。新しい望遠鏡や、探査機から送られてきた新しいデータの解析による発見ではなかった。すでに人間の手中にあったデータをAIが精査した結果、人間が見逃してしまった小さなデータの変化を見逃さなかったからこその発見だったという。 

日々技術的な進化を遂げている望遠鏡や、太陽系を脱出して星間飛行を続けている探査機などの活躍により、人間は宇宙について膨大なデータを入手できるようになった。しかしそのような膨大なデータを解析するには時間も労力も人手も足りていない。 

CNNのようなパターン認識に長けたAIは人間よりも優秀な惑星ハンターだ。そして今後太陽系外惑星を探し出すだけではなく、例えば地球外生命体から遅れれてくる信号や、深い宇宙の闇から発せられるガンマバーストの検知にも役立つかもしれない。人間が作り出した人工的な知能をどのように有効活用するかは、人間の知能次第だ。

AI spots thousands of craters on the Moon — including over 6,000 previously undiscovered ones (ZME Science)
Lunar Crater Identification
via Deep Learning (arXiv)Using AI to count craters on the moon at U of T’s Centre for Planetary Sciences (University of Toronto)
Artificial Intelligence Has Just Found Two Exoplanets: What Does This Mean For Planet Hunting? (Astrobiology at NASA)