培養した人肉を食べたらカニバリズムになるか?物騒な議論が展開中

幹細胞から培養された「クリーンミート」、2018年に?これを長く待ちわびていたよ。(中略)もし人肉が培養されたとしたら?人類はカニバリズムというタブーを乗り越えられるだろうか?帰結主義的な道徳感と、絶対主義的な“嫌悪感”のどちらが勝利するか、興味深いテストケースだ

カニバリズムの禁忌に触れたツイートが波紋を呼んでいる。英ニュースメディアのThe Independentは、欧米圏で注目を浴びている人工培養肉、通称「クリーンミート」が、年内にもイギリスで発売される可能性を3月2日付で報じた。その翌日、イギリスの進化生物学者で『利己的な遺伝子』の著者としても有名なリチャード・ドーキンス博士がこんなツイート砲を放ち、インターネットを騒然とさせた。ツイッターユーザーからの反応は素早く、多くは手きびしいものばかりだった。

「ヤバイ」、「一線を越えてしまった」、「気持ち悪い!」など、真っ向からタブーを肯定するコメントが目立つ中、「人工培養肉の記事からなぜ人肉を連想するんだ?」と冷静にドーキンス博士の論理の飛躍を指摘するユーザーも。また、ドーキンス博士が無神論者なのを揶揄して「サタニスト」呼ばわりするツイートも多く、そこから宗教的な価値観の違いが露見して罵り合うユーザーも多かった。やはり、扇情的な内容なだけに興奮している様子のユーザーが大半だが、中には培養された人肉におけるカニバリズムの是非を、ユーザーと冷静に議論する一幕も。意外にも「おいしければ、食べるかも」という反応があったのは興味深い。

さらに次の日にはツイッターからReddit(アメリカで人気の電子掲示板)に飛び火し、「ドーキンス博士、人肉を食べてないはずはない」などとやや否定的な発言が飛び交う中、「確かに…培養された人肉を食べてもなにも悪くない。ただ、気持ち悪いだけ」とのコメントも。ドーキンス博士は上記のツイートにおいて決してカニバリズムを推奨してはいない。そして、その後釈明や補足のツイートを追加していない。彼が今回試みた「テストケース」においては、後者の絶対主義が勝利したと言って間違いないだろう。 

帰結主義と絶対主義

このツイートの背景には、欧米圏で活発に議論されている食肉の倫理問題がある。スーパーに陳列される鶏、豚、牛肉や魚介類がどこから来たか、どんな環境で育てられたか、どんな抗生物質を与えられたか、またどのように屠殺されたか。人間が肉を食べるために作り上げた牧畜というシステムは、動物にとっては苦痛を強いるほかなにものでもないという倫理的なスタンスから、菜食主義に転じる人もいるほどだ。

さらに、家畜を育てるためにエサとして消費されている穀物類は、飢餓に苦しむ人々のお腹を満たすのに有効だ。あるコーネル大学の研究では、アメリカ全土で家畜に与えている穀物類をそっくりそのまま換算すると8億人分の食事になるという。動物性タンパク質を作るには植物性タンパク質より8倍もの化石燃料を消費するのにも関わらず、栄養価は1.4倍しか変わらないとの分析もある。

しかしいくら菜食主義が世界の飢餓を救い、動物を苦しみから解放すると解っていても、肉の味を諦めきれない――そんな人にとって、人工培養肉は「終わりよければすべてよし」という帰結主義に叶った朗報だ。動物を殺さずにその肉を食べられれば、こんなにいいことはない。実際、今欧米では盛んにクリーンミートの技術開発が進められている。

冒頭の記事で紹介されたのはオランダのマーストリヒト大学教授率いるMosa Meat社。先陣を切って2013年に幹細胞から培養された牛の筋肉で作られたハンバーガーの試食会を催した。

しかし、このいいことずくめに見えたクリーンミートという対策が、「人肉」というカテゴリーを加えられたとたんに激しい議論を生むことになった。議論を巻き起こした張本人であるドーキンス博士が「絶対主義的な嫌悪感」と書いたのは、人が人を食べるというタブー以外の何物でもない。人類の祖先は旧石器時代から人肉を食べていた証拠が数々の遺跡に残されている。どのくらいの頻度で、またどのような理由から人が人を食べ始めたのかはわからないが、栄養を摂るためだったという説や、なんらかの儀式的な意味合いが込められていたとされる説もある。現代に至るまで猟奇的な殺人事件においてたびたび顔を出すカニバリズム。究極のタブーであるからこそ、人々の好奇心を惹きつけてやまないようだ。

Would You Eat Human Meat Grown in a Lab? (Live Science)

First Test-Tube Burger Eaten in London (Live Science)

Twitter

Reddit

Assessing the calorific significance of episodes of human cannibalism in the Palaeolithic (Scientific Reports)

Lab grown ‘clean’ meat could be on sale by end of 2018, says producer (The Independent)

U.S. could feed 800 million people with grain that livestock eat, Cornell ecologist advises animal scientists (Cornell Chronicle)