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ミルクとパンと酒が人間の進化を変えた

ミルク、パン、酒。すべてが近所のコンビニでも揃うごくありふれた食材なのにも関わらず、じつはこの3つが人間の進化に及ぼした影響は大きい。

すべての生物がそうであるように、人類は常に進化し続けている。遺伝子技術の発達とともに古代人の遺伝子解読も進み、現代人との比較調査が次々と行われる中で顕著になってきたのは食が人類の進化に及ぼした影響力だ。

食生活はどのように人類の進化を方向付けてきたのか。過去1万年間のホモ・サピエンスの進化をたどってみると、肌の色、乳糖持続性、どれぐらい酒に強いかを決める遺伝子でさえ、食生活の影響を受けて進化してきたそうだ。

「食生活は人類の進化の歴史において根本的な要素」と米ウィスコンシン大学マディソン校のジョン・ホークス教授はSmithsonianに語っている。「1万年かけて人類は体の構造、歯、頭蓋骨など多様な変化を遂げてきたが、これらはすべておそらく食生活の変化に伴うものだ」とも。 

哺乳類の宿命に抗った人類

自分ひとりの力では捕食できない未熟な姿で生まれ、母親の乳を飲んで育つ哺乳類の動物は、生まれながらにして乳に含まれる乳糖を分解できる酵素「ラクターゼ」を持っている。成長するにつれて母親の乳を飲まなくなればラクターゼを必要としなくなるため、体内でラクターゼを作り出さなくなるという。

ホモ・サピエンスも元々は離乳後にラクターゼを作らなかったと考えられている。ところが牧畜を始めて他の哺乳類の乳を飲むようになると、乳糖持続症――つまり、離乳後もラクターゼを作り続けるために牛乳や羊乳を飲んでも乳糖を消化できる体――を持つ割り合いが次第に多くなっていった。

Smithsonianによれば、現代に生きる成人の約3割が乳糖持続性をもたらす遺伝子を持っているそうだ。2万年前にはまったく存在していなかった遺伝子が短期間にここまで顕在化した理由は、乳を直接消化できることが生存に有利だったからだと考えられる。

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乳糖不耐症の人でも乳製品を発酵させたチーズやヨーグルトなら食べられる。発酵の過程で菌が乳糖を分解してくれるからだ。しかし、乳糖が分解されればそれだけエネルギー量も減ってしまうし、食べ物にありつけるまで時間がかかってしまう。食の確保が不安定だった古代人にとって、乳を直接摂取できるかできないかの違いは命取りだったのではないだろうか。

現代では乳糖持続性を持つ人の割り合いが地域によって差があることも分かってきている。伝統的に牧畜を営んできた北ヨーロッパ人は95%がラクターゼを作り続ける遺伝子を持っている反面、アジア、西部アフリカ、中東などでは比較的に低いそうだ。 

麦の栽培が生んだトレードオフ

「グルテンフリー」と指定された食材をスーパーなどでよく見かける。小麦・大麦・ライ麦に含まれるタンパク質だが、人はこのグルテンを消化できる酵素を持ち合わせていない。さらに、グルテンを摂取するとアレルギー反応を起こしたり、セリアック病という自己免疫疾患に陥る人もいる。

セリアック病を引き起こす遺伝子は人類がおよそ1万年前から麦類を栽培し始めた頃から増え始めたという。普通に考えれば生存に不利な遺伝子は自然淘汰されるはずなのに、なぜなのか。

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セリアック病患者の体内にグルテンが入ると、消化されないままグルテンが小腸に残ってしまう。すると、免疫細胞がこれを病気と勘違いして腸内の細胞を攻撃してしまうそうだ。ところが、この免疫細胞の働きは人体をウィルスから守る重要な役割を果たしている。免疫細胞は常に形を変えて攻撃してくるウィルスに対抗するため、常に変化しながら異物に反応している。新しい形のものに反応する力を得た反面、グルテンを取り込んだ自分の小腸さえも「異物」だと判断してしまう――ホークス教授によれば、これは進化においてのトレードオフだという。 

「アジア・フラッシュ」とは?

一方、米の栽培を始めたアジアのホモ・サピエンスには別の遺伝子が表れた。俗にいう「アジア・フラッシュ(Asian flush)」、少量のアルコール摂取後に顔が赤らむ反応だ。

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赤い顔の下では体がアルコールに反応して大量の酵素を作り出している。酵素がアルコールを分解する過程で大量のアセトアルデビドという毒性のある成分を作り出すため、顔が赤らみ、人によっては吐き気などの不快感が生じる。

アジア・フラッシュと言われるだけに、日本人・中国人・韓国人がこの現象を引き起こす遺伝子を保有する割り合いが高いそうだ。そしてこの遺伝子は人が米の栽培を始めた、やはり1万年前ぐらいから増えつつあるという。酒を飲みすぎないための自然の防御反応なのかもしれないと考える科学者もいるそうだが、生存に有利ではあっても厄介な遺伝子だ。 

肌の色の変化は比較的新しい

以前D-Newsでもご紹介した研究では、今からおよそ1万年前にヨーロッパ大陸から陸路でグレートブリテン島に移り住んだイギリス人の肌が黒かったことが判明した。すなわち、イギリス人は1万年かけて白い肌を持つように適応したわけだ。これは今まで気候の変化によるものだと考えられてきたが、じつはここでも食生活の変化が関係している可能性が出てきた。

アフリカの強烈な日光から肌を遮るために黒くした肌も、曇りがちで比較的寒いグレートブリテン島では必要性を失い、色素も徐々に失われていった。それに加え、もともと狩猟に頼っていたホモ・サピエンスが農耕文化を築き上げていく過程で、食物から得られるビタミンDが減少したことも肌の色に影響したのではないかと考えられる。肌の色は薄ければ薄いほど、日光浴により多くのビタミンDを作れるからだ。

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現代にみる肌の色の多様性は、じつは人類の進化において比較的新しいものだった。そして人類はまだ進化の途上にある。

How Cheese, Wheat and Alcohol Shaped Human Evolution (The Smithsonian)

New Diet, Sexual Attraction May Have Spurred Europeans’ Lighter Skin (Science)

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