男女関係なかった化粧文化が今の形になった理由

ツヤめいたパステルピンクや、お菓子みたいなシャーベットオレンジ。新色のルージュが店頭に並びだすと春を感じずにはいられない。

ルージュ、チーク、アイシャドウ、アイライナー、ネイルグロスに至るまで、現代のコスメはまるで絵具箱のように豊富な色展開で、どんな人にも、どんな季節やTPOにも合わせられる。しかし化粧品の歩んできた長い歴史のなかで、このような状況は決して常ではなかった。

化粧品はいつ、どのように創り出されたのか。時代を経てどのように変化してきたのか。およそ9万年の歴史をもつとされる化粧とその意味について考察していきたい。 

初めに「赤」ありき

人類初の化粧品はオーカーと呼ばれる天然黄土から作られたと考えられている。今まで確認されている最古の使用例は、およそ9万2000千年前の地層から出土した貝殻だ。イスラエルのカフゼー遺跡で発見された貝殻には、紐につるされていた痕とともにオーカーが付着していた。調査を行った考古学者のオフェル・バール=ヨーセフ氏らは、貝殻はおそらくネックレスで、それをまとっていた人の肌からオーカーが移ったものと推測している。つまりは、9万2000千年前の新人類はすでに肌にオーカーを塗りつけていた可能性が高いというわけだ。

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実際、アフリカのナミビアに住むヒンバ族の女性は、今でも真っ赤なオーカーを砕いてパウダー状にしたものを牛乳由来の脂肪と練り混ぜて作る「otjise」というクリームを体と髪に塗って生活している。人類考古学者であるリアーン・リフキン教授が2017年12月に発表したヒンバ族についての研究によれば、「『otjise』を肌に塗るのは「ヒンバ族の文化と伝統であり、つけた人を美しくする。赤くないヒンバの女性は存在しない」と現地の女性が語っているぐらい、ヒンバ族のアイデンティティーの根幹を成している。

ヒンバ族の男性も儀式や長旅の折には「otjise」をまとい、死に化粧にも使われるという。また、二次的に紫外線対策と虫よけ剤としても効果があると言われている。地域に暮らす他の民族との差別化を図るためにも「otjise」は有効だったため、一緒にオーカーを採取し、クリームを互いに塗り合い、同じ化粧を施すことで仲間意識を固める役割があったのかもしれない。

このようなことから、9万年前に生きた人間の祖先もヒンバ族と同じようにオーカーを肌に塗っていたのではないかと考えられるそうだ。もともとは実用的な理由(儀式、虫除け、UV)で肌に塗っていたオーカーの赤が次第に美意識につながり、「自分らしさ」を形成する欠かせないものとなっていった。 

ステータスとしての化粧

古代エジプトでは紀元前1万年から赤、黄、黒などのボディーペイントが作られ、儀式のために使われたとみられている。The Independentによれば、紀元前4000年の壁画にはコールと呼ばれる漆黒のアイライナーが確認されており、その頃すでに化粧が広まっていたことが伺えるそうだ。

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コールにきつく縁どられたエジプトのアイラインは有名だが、じつは美しさや個性の主張と同じぐらいに機能的、宗教的な意味合いが含まれていた。コールの主成分である鉛は通常毒性を持つものだが、目から出る水分と混ざると抗菌作用を発揮したという。その効能を知ったうえで、古代エジプト人は目の病気を避けるためにも男性、女性問わずアイラインを引いた。また、外出時には厳しい日射量から目を守るためにも役立った。このような機能的な必要性に加えて、「邪眼」から身を守るための魔よけの意味も持っていたとされている。

コールを作るには鉛に加えてマラカイトなどの半貴石を必要としたため、貴族社会のみに流通した。古代エジプト文明においては化粧が社会的地位の印になったともいえる。そしてそれ以降、化粧が身分と結びつく傾向は強くなっていった。 

美しさのうらには毒

やがて古代ローマ時代に入ると大きな変化が表れた。まず、化粧が一般的に多用されるようになったこと。そして化粧が女性にのみ使われるようになったことだ。

化粧の毒性について時代を追って調べたスーザン・スチュアート氏によれば、古代ローマではファンデーション、口紅、脱毛クリームなどが主に使われていたが、多くは鉛、水銀、ヒ素などの有害物質を含んでいた。そしてこの頃すでに「美白」が盛んになっていたそうだ。

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そのまま中世ヨーロッパに引き継がれた美意識は、例えばエリザベス女王の肖像画に見ることができる。おしろいで真っ白な頬に逆三角形に赤いチークを入れて口紅を塗ったその姿は、おそらく今日見ることができたらずいぶん病んで見えただろう。そして実際、化粧の毒性は女性の肌をむしばみ、黄色や緑色のくすみを作っていき、そのくすみを隠すためにさらに大量のおしろい粉を塗りつける悪循環を生んだ。

それでも中世ヨーロッパの女性が鉛を顔に塗り続けた理由は、「人種的に純粋で、労働を感じさせない理想の白さ」にこだわったからだと作家、アリソン・マシューズ・デイビッドは書いている。

「理想の白さ」にあてはまらない自分を変えるために化粧をする。それは、女性が自分のために化粧をしているかのように見えて、じつは化粧をさせられていたことを示しているのではないだろうか。 

男性も化粧する時代に?

そして、現代。心理学者のグレン・ジャンコウスキー氏は2018年には男性の化粧も主流になると予測している。それは、男性が自ら化粧することを望むからというよりは、むしろ「男性はこうあるべき」というメッセージがマスメディアから発せられるせいで自己のイメージが揺らぐからだとも書いている。

10~20代に圧倒的な人気を誇るメディアといえばYouTubeだが、近年ユーチューバーが男性の化粧の仕方について詳しく解説する内容が増えているそうだ。それとともに理想とされる男性像も変わってきている。ひげを剃って顔を清潔に保つだけではなく、毛穴を目立たせない工夫が求められたり、眉を整えたり、コンシーラーでくすみを取り除いたり、以前なら女性的と思われたであろうメイク法が若い世代の男性にも徐々に受け入れられるようになるかもしれない。

改良を重ねられてきた化粧品は、もはや不可能なことはないぐらい人間の造作を変えることができる。あらゆる色、あらゆる質感の粉やクリームやベースメイクを駆使して、一重を二重に、ミカン肌を赤ちゃん肌に、自分が望むとおりに自在に変身させてくれる。

理想の自分を叶えてくれる化粧は、必ずしも悪くない。誇らしげに前を向いて歩いていくために必要なら、好きな自分を叶えてくれる化粧品をうまく使いこなさない手はない。でも、その「理想の自分」の姿は本当に自分の理想なのか、それともYouTubeで理想とされている通説にすぎないのか。化粧の幅が広がっている分、自分のアイデンティティーを見失わないことが今後より一層大切になってきそうだ。

Shells and ochre in Middle Paleolithic Qafzeh Cave, Israel: indications for modern behavior (Journal of Human Evolution)

Gaining ethnoarchaeological insight into prehistoric southern African pigment mining practices (Journal of Anthropological Archaeology)

Inventing A Science of Make-Up (Molecular and Structural Archaeology: Cosmetic and Therapeutic Chemicals)

Science: The art of ancient Egypt (The Independent)

Chapter 8 – “Gleaming and Deadly White”1: Toxic Cosmetics in the Roman World (History of Toxicology and Environmental Health)

Friday essay: toxic beauty, then and now (The Conversation)

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