パワハラにはブードゥー人形で対抗?カナダの異色な研究結果

職場の上司にパワハラを受けながらも為す術がなく、モヤモヤした経験はないだろうか?ある異色な学術研究によると、そのモヤモヤを晴らすには上司に見立てたブードゥー人形をいたぶるのが効果的だそうだ。

カナダのウィルフリッド・ローリエ大学でリーダーシップ、職場での攻撃性、感情などを研究しているビジネススクール所属のリンディー・リアング助教授ほか5名が発表した研究の題名は「不正を正す――抑圧的な上司を象徴したブードゥー人形に報復することで修復される自己の正当性」。 

バーチャルな仕返し

リアング助教授らの研究では、アメリカ・カナダ在住の正規雇用者195名を対象に実験を行い、その中から無作為に選び出された3割に職場で過去に体験したイヤな上司を思い出してもらった。続いてブードゥー人形に仕返しできるウェブサイト(!)に誘導し、そのイヤな上司に見立てたブードゥー人形に針を刺したり、ペンチでつねったり、火であぶったりして1分間だけバーチャルな報復行為をさせた。(32名はこの時点で実験を放棄し、最終的な実験データから外されたそうだ。)被験者たちはその後簡単な穴埋めクイズに取り組み、実験は終了した。

http://www.dumb.com/voodoodoll/ – Screenshot: C. Yamada

同じく無作為に選び出された3割にも職場で過去に体験したイヤな体験を思い出してもらった。しかし先の「報復」グループとは違い、ブードゥー人形の画像を見せられてその輪郭をマウスでトレースするという無意味な行動をさせられただけで、報復するチャンスを与えられなかったそうだ。最後にやはり穴埋めクイズに取り組んでもらい、終了。

さらにもう3割は統制群として扱われ、イヤな上司との思い出には一切触れることなく穴埋めクイズにだけ取り組んだ。

じつはこの穴埋めクイズ、被験者の不正に対する潜在的なモヤモヤを計る工夫がされており、この回答によって過去のイヤな上司に対する思いが晴らされたかが判断された。

結果、ウェブ上でブードゥー人形に仕返ししたグループは、報復のチャンスがなかったグループよりも3割程度モヤモヤが減少していた。報復行為は否定的で非生産的と思われがちだが、この研究により「パワハラ被害者の視点から見過ごされていた報復行為の利益が明らかになった」そうだ。 

負を負で公正できるのか

ホワイトカラーな論文がブラックマジックを思い起こさせる行為の利益を語っているのは、多少なりとも違和感を感じる方も多いのではないか(筆者含め)。

研究者たちはパワハラの例として上司から公衆の面前で叱責されたり、怒鳴られたり、責任転嫁されたり、無視されたり、バカにされるなどを挙げている。それらの行為がいかに被害者の正当性をむしばむかを問題視したうえで、その正当性を取り戻すには報復が有効な手段だとしている。

Credit: alles / Pixabay

しかし攻撃に対して反撃すると、更なる攻撃の連鎖を招いてしまいかねないことは研究者たちも認めている。上の画像のような事態に発展しないためには、そもそもパワハラのゼロ容認体制を徹底するなどの対策も必要…としたうえで、 もし「恒久的に上司から不当な扱いを受けているような場合は、無害で象徴的な報復行為(例えばブードゥー人形に針を刺したり)が被害者にとって有益かもしれない」と結論付けている。

「ブードゥー人形ではなくても、例えばダーツの的に上司の写真を貼りつけても同じような効果が得られる」とリアング助教授はThe Telegraphに語っているが…。 

呪いは不幸を招く

しかしブードゥー人形に釘を刺す行為は本当に「無害」なのだろうか。

「ブードゥー人形」というとブードゥー教から来ていると勘違いされがちだが、ブードゥー人形のルーツは中世イギリスにさかのぼる。The Telegraphによれば、当時は「ポペット」と呼ばれた簡素な布人形を魔女に見立てて針を突き刺すことで、魔女の魔力に対抗し、魔女の呪いを解いたそうだ。

後にアフリカ由来のブードゥー教に誤って結びつけられてこの呼び名になった。ブードゥー教はアフリカからさらわれて奴隷となった人たちがハイチで花開かせた土着信仰で、精霊を崇める多神教である。死んだ者の霊がゾンビになることはあっても、呪いの儀式などで人形に釘を刺すことはない。

ブードゥー人形はむしろ悪魔を崇拝するブラックマジック。人形に怨念を込めて誰かを呪い、針で人形の頭を刺せば頭痛を、腹を刺せば激烈な腹痛を引き起こすといわれている恐ろしい負の力の結晶だ。

「象徴的」とはいえども、ブードゥー人形を「無害」と思いこんで呪ってしまったら、むしろ自分に不幸を招くのは目に見えている。すべて自分が送り出したものは、自分に返ってくるのだから。

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乾杯!

「研究の限界」として、リアング助教授らはパワハラの被害者が上司の不正行為に対して報復したとしても短期的な効果しか検証されておらず、さらにその効果は人それぞれであることを書いている。

また、不正感は報復以外のさまざまな方法でも公正できると書いている。負には正で対抗し、許し許されることも大切だ。もし許せないレベルの不正や怒りだったら、信頼できる同僚と一緒に愚痴るのも手かもしれない。それがダメなら部署を挙げての飲み会?

人事部のオンブズマン制度や労働組合など、正式な相談窓口もあるはずだ。バーチャルであれ、ブードゥー人形をいじめるよりも生産的な方法はいくらでもありそうだ。

Voodoo dolls of bosses improve staff morale, study finds (The Telegraph)

Righting a wrong: Retaliation on a voodoo doll symbolizing an abusive supervisor restores justice (The Leadership Quarterly)