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25%少ない水でも育つ植物をアメリカの生物工学者が開発

アメリカのイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校とカリフォルニア大学バークレー校に所属する研究者チームが、水分消費を25%抑えてもほぼ通常通りに育つ植物を開発した。遺伝子組み換え技術を使って気孔が開いている時間を短縮した結果だという。2018年3月6日に学術誌『Nature Communications』のオンライン版にて発表された。

「遺伝子組み換え」と聞くと体に悪いようで消費者として身構えてしまうが、世界保健機関(WHO)によれば今のところ人体への悪影響は確認されていない。遺伝子組み換え食品は主に

  • 害虫に強い
  • 細菌感染に強い
  • 除草剤に強い、

この三つの目的を達成し、農家の利益を優先して生産性を高めるために関発されている。

今回の研究では、光合成に必要な遺伝子を組み換えることにより、植物の気孔が開いている時間を短縮し、気孔から蒸発して失われる水分を大幅に削減したそうだ。いままでの遺伝子組み換え技術とは一線を画しているという。なぜなら、気孔の開閉はすべての植物にほぼ共通する基本的な営みであり、理論上はあらゆる植物の品種改良に応用できるからだ。 

葉の裏側は穴だらけ

ここで少し植物についておさらいを。大学レベルの教科書『Biology of Plants』によれば、植物は動物よりはるかに多くの水分を必要とする。

植物と動物の体積を同じとして計算すると、植物のほうが動物よりも17倍多い量の水を必要とする。動物は取り入れた水分を血漿などに蓄えて体内で循環させるので、比較的少ない水の量でも生きていける。ところが、植物が根から吸い上げる水分のじつに99%は葉の裏に並んでいる無数の気孔から蒸発してしまうので、常に水を吸い上げ続けなければ枯死する恐れがあるのだ。

イメージ画像:セイヨウキヅタの気孔(1,500倍) – Credit: Smith Collection / Gado / Getty Images

気孔の数は驚くほど多く、タバコ(Nicotiana tabacum)の葉には1平方センチメートルにつき12,000個もある。面積にしてみると気孔は葉全体の1%にも満たないが、ここを開いて光合成に必要な二酸化炭素を取り入れると同時に内部の水分が蒸発してしまうので、気孔は植物にとって最大の水分ロスの原因となっている。 

温暖化との関係

気孔から水分が蒸発する速度は、葉の内部(気孔の内側)と外気の湿度との差に比例している。つまり、外気の湿度が低い場合、潤った葉の内部からより湿度が逃げ出しやすくなるので蒸発が早まり、植物はより多くの水分を失ってしまう。さらに、外気の温度が高ければ高いほど水分の蒸発が速まって外気が乾く傾向にあるので、気温の上昇は結果的に植物の水分消費量を増やしてしまう。

世界中で地球温暖化現象が報告されているなか、外気の温度の上昇が植物からより多くの水分を奪っている。しかし同時に水不足も深刻な問題である以上、限られた水量で未来の食糧を確保するにはより少ない水でも育てられる農作物の開発が急務なのだ。 

葉の水分ロスを防ぐ画期的な方法

このような背景から、今回の研究ではPsbSという光合成に欠かせないタンパク質を作る遺伝子をいじって、通常より多いPsbSを持つ試験的なタバコの苗を開発した。

PsbSタンパク質は太陽光の量が少なくなるにつれて気孔を閉じる命令を出す。過剰なPsbSの働きはより早く気孔を閉じさせてしまうので、結果的に気孔から蒸発する水分が抑えられて、最高25%も少ない水分でも育つ植物に仕上がった。

しかし気孔が開いている時間が短縮されたら、光合成に不可欠な二酸化炭素を充分に取り込めなくなり、成長に支障をきたすのではないか?

この点は問題なかったそうだ。なぜなら、二酸化炭素をふくむ温室効果ガスの濃度が上がっているため、より短い時間しか開いていなくても気孔から充分な量の二酸化炭素を取り込めたという。研究論文によれば地球の二酸化炭素濃度は1950年以来25%も増えているというから、まさに地球温暖化効果を逆手に取ったかたちだ。

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遺伝子組み換え食品の新たな開発につながるか

主任研究員のスティーブン・ロング教授(イリノイ大学)によれば、近年の急激な地球温暖化に伴う環境の変化に植物の進化が追いついていないという。

「進化の速度は最近の急激な環境変化についていけていません。そこで、わたしたち科学者が遺伝子組み換えにより手助けをしてあげているのです」とロング氏はAFPに対して語っている。

ただ、今回の実験においてはPsbSの量に関係なくすべてのタバコの苗に充分な水やりが行われたため、気孔が早く閉じた遺伝子組み換え種には不利な状況だった。実際、遺伝子組み換え種は通常の苗に比べて背丈、バイオマスの量において劣っていた。

将来的にこの技術を他の農作物に応用する場合にネックとなりそうだ。また、PsbSの量を人工的に増やした植物が人体にどのような影響を与えるのかも充分に検討しなければいけない。

Genetic tweak makes plants use 25% less water (AFP)

Photosystem II Subunit S overexpression increases the efficiency of water use in a field-grown crop (Nature Communications)

Frequently asked questions on genetically modified foods (WHO)

Raven, Peter H., Evert, Ray F., & Eichhorn, Susan E. (1992). Biology of Plants Fifth Edition. New York: Worth Publishers.

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