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バチカン神父がエクソシズム依頼の増加を報告…原因は映画?

バチカンのベテランエクソシスト、ベニーニョ・パリーラ(Benigno Palilla)神父が最近、バチカンラジオでここ数年で悪魔払い「エクソシズム」の依頼が3倍に増えたと語っている。それによれば、現在イタリアで毎年記録される悪魔憑きのケースは50万とされるそうだ。

The Conversationに寄稿するクイーンズランド大学の宗教思想歴史の名誉教授であるフィリップ・アルモンド(Philip Almond)は、このような現代西洋の悪魔憑きの台頭は、1973年のアメリカ映画『エクソシスト』に遡ることができるとしている。 

悪魔憑きを蘇らせた映画

古くは他の宗教の儀式を悪魔的と見なすことに始まり、1500年代から1700年代にかけて盛んに行われていた悪魔払い。それは以降暫くなりを潜めていた。映画『エクソシスト』が公開されるまでは。

アメリカでは当時大ヒット、日本でも大きな話題を呼んだ映画『エクソシスト』は、悪魔に取り憑かれた少女を神父がエクソシズム(悪魔払い)するという話。それ以前にもホラー映画に悪魔やキリスト教的モチーフが出てくるものは、吸血鬼者もあれば、1968年の『ローズマリーの赤ちゃん』なども存在していたが、どれも『エクソシスト』ほど人々に影響は与えるものではなかったようだ。『エクソシスト』はその優れた特殊効果で人々にショックを与えただけでなく、カトリック教会に悪魔祓いの儀式が存在するという事実を人々に知らしめた作品でもあったのだ。

アメリカでの上映ではあまりのショックに映画途中で出てきたり、失神する観客が上映する度にでた事でも知られる。上映当時、この映画により悪魔その他への迷信の信憑性が増すことになり危険だと精神科医は述べていた、とするCBSのテレビ報道も。もしかするとその危惧が現実のものとなったのかもしれない。

なお、この悪魔払いの儀式はキリスト教の中でもプロテスタントには無く、有名なのはカソリック教会のものだ。映画で悪魔に取り憑かれた少女を演じたリンダ・ブレアもNerdistのインタビューで、カソリックでは無くプロテスタントとして育てられ、「(プロテスタントでは)悪魔の話は語られない。私たちは他者に善くあれと語る」としている。

信者でも知らなかった「己の身に降りかかる可能性のある恐怖」をまざまざと見せつけた映画が人々に与えた影響の大きさは、映画公開の1973年を皮切りに多数出てきていることからもわかるだろう。以降多数登場した「悪魔憑きもの」映画の中でも実話を元にしているというものだけでも多くある。

映画化された実話

『エクソシスト』公開から間もない1,976年、ドイツで67回の悪魔払いを受け23歳の若さで死亡したアンネリーゼ・ミハエルの事件は、裁判に発展したことでも有名だ。このケースでは、ミハエルが悪魔に憑かれていると考えたことが発端となり、悪魔払いが行われることとなった。だがその一方で、ミハエルは元々側頭葉てんかんを持っており、薬による治療を受けていたのだ。側頭葉てんかんの症状には幻覚や幻聴もある他、ゲシュウィンド症候群という症状を起こすことでも知られ、その症状の一つは宗教性過剰(Hyperreligiosity)という、信仰心が強く高まる症状も存在する。その悪魔憑きとされた様子などはここでは省くが、彼女は栄養失調と脱水により死亡したことから、彼女の両親と二人の司祭が過失致死傷罪などで訴えられたことが話題となった。2005年にはこれを元にした映画『エミリー・ローズ』、2006年には『Requiem』、2011年にも『Anneliese: The Exorcist Tapes』という映画が作られている。

2011年の映画『ザ・ライト -エクソシストの真実-』は、エクソシストの訓練を受けるアメリカ人司祭が悪魔憑きや悪魔と対峙する様を追ったマット・バグリオのノンフィクション小説『The Making of a Modern Exorcist』を元にしたもの。このアメリカ人司祭は今ではアメリカでも有名なエクソシストと知られるゲイリー・トーマス(Gary Thomas)神父だ。2013年の『死霊館』も有名な超常現象研究家が1970年代に担当したケースがもとになっているとされる。2014年の映画『NY心霊捜査官』もラルフ・サーキの手記『エクソシスト・コップ NY心霊事件ファイル』が元になったものだ。

宗教思想歴史家をして現代の悪魔憑きの元となったとされる映画『エクソシスト』もまた、実話がインスピレーション元になった作品だ。これはウィリアム・ピーター・ブラッティによる同名の小説が原作だが、小説の元となったのは、1949年にアメリカのメリーランド州で起きたとされる「ローランド・ドウのエクソシズム」と呼ばれる事件だった。2000年に『エクソシスト/トゥルー・ストーリー』のタイトルで映画化もされているこの事件は、メリーランド州に住む13歳の少年「ローランド・ドウ」(カソリックの付けた仮名)が悪魔払いを受けたケースである。この事件の悪魔払いの舞台の一部ともなったセントルイス大学は、悪魔払いに当たった司教の日記には、壁や床から引っ掻き音が聞こえ、マットレスその他が動き、少年の体にひっかきが現れたほか、汚い言葉で罵ったり、この子供が知りそうにない曲や聖歌の一節を歌ったという。だが同時に、この事件の関係者を取材した『Possessed』という本を出版したトーマス・B. アレンは「ローランド・ドウ」の身に起きた現象を悪魔憑きとする証拠はないとしており、精神障害かもしれないし、他の超常現象だったかもしれないともしている。

Exorcism and Urban Religious Rituals in Colombia – Credit: Getty Images

悪魔憑きかそれとも…

このローランド・ドウにせよ、アンネリーゼ・ミハエルにせよ、それが実際に悪魔憑きだったのか、なんらかの疾患だったのかは不明瞭だ。カソリック教会は、『新約聖書』のマタイによる福音書4:24で「悪魔憑き」を「てんかん」(口語訳)もしくは「精神障害」(欽定訳聖書)とは別のものとして記していることを理由に、これらの疾患と悪魔憑きは違うものだと考えているようにも思える。

だが、カソリック教会も時代遅れのエクソシズムの習慣を現代に適用させようと努力はしているようだ。ニューヨークタイムズによれば、1614年に出されたバチカンのエクソシストに関するガイドラインは1999年に更新された。イギリスのカソリック教会誌、カソリック・ヘラルドによれば、この正式なガイドラインでは、医学的、心理的、精神医学的な検査を受けた後に始めて悪魔憑きかどうかが判断されるという。

現在のローマ教皇フランシスコは「現代的」、「先進的」な教皇であるとされる一方で、悪魔の存在を疑うことはないようだ。教皇フランシスコは昨年末にもテレビインタビューで悪魔に関する話をしている。英テレグラフの報道によれば教皇はその際に、悪魔は霧のような存在ではなく、実在して暗黒の力を持っている、などと語ったとされる。また、バチカン公式ニュースは、冒頭に述べたように悪魔憑きとされるケースが近年急増したこと、そして独学のエクソシストは間違いを犯すこともあるとして、師弟制の新たなエクソシストの養成コースを設立すると発表している。

70年代から現代のエクソシストブームが続く中で、ここ数年で悪魔憑きとされるケースが急増した理由は定かではないが、強いて推測するならば、現在の教皇がエクソシズムに積極的に見えることと、エクソシストものの映画が2010年代以降も増えていることもあるかもしれない。また、時世が不安定なことから宗教に頼る人が増加している可能性もあるだろう。

教皇に関しては先に述べた通り、悪魔の存在を認めておりその対応に積極的だし、2013年に「教皇が悪魔祓いを行う様子」などとされる動画が出回ったことなども記憶に新しい。

なにはともあれ1973年の映画『エクソシスト』が人々の心に「憑依する悪魔」という悪魔的なアイデアの種を植え付けたのは確かなようだ。

The Vatican, the exorcists and the return of the Devil in a time of enchantmen(The Conversation)

THE VATICAN IS TRAINING MORE EXORCISTS, WITH REPORTS OF DEMONIC POSSESSION SOARING(Newsweek)

Corsi per esorcisti per le periferie esistenziali degli indemoniati(Vatican News)

Exorcism of 1949 Frequently Asked Questions (FAQ)(Saint Louis University)

Audiences had some intense reactions to The Exorcist in 1973(AVCLUB)

Cultural Impact of The Exorcist 1973(YouTube)

LINDA BLAIR ON THE EXORCIST’S CONTINUED IMPACT(Nerdist)

Don’t argue with the Devil – he’s much more intelligent than us, says Pope Francis(The Telegraph)

For Catholics, Interest in Exorcism Is Revived(The New York Times)

Anneliese Michel And The Shocking Images From The Exorcism Of The Real Emily Rose(AllThatInteresting)

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