愛妻の病死からわずか1ヶ月……なぜ夫は惨殺されたのか?

メキシコ湾に面する閑静な港町、パーム・ハーバー。2003年3月、平和なこの町の住人であるデビッド・ランツが遺体となって発見された。現場となった自宅の壁と天井には彼の頭蓋骨や脳しょうが飛び散るという、凄惨きわまりない状況だった。

バツイチのデビッドが再婚相手とこの町に引っ越してきたのは数年前。隣近所に親友もでき、フロリダの温暖な気候の下で幸せな時間を過ごしていた彼だったが、2003年2月に妻をガンで亡くしてしまう。前妻との間にもうけた子どもとは長年疎遠であり、たった1人の家族である妻を失ったことでデビッドは強い孤独に打ちのめされた。だが、友人らの支えを受け人生の再出発へ向けて歩みだそうとしていたその矢先、彼は凶悪な殺人事件の被害者となってしまった。妻の死からわずか1ヶ月後のことだ。

警察の現場検証から、犯人が至近距離から散弾銃で撃っていること、金目のものは一切盗まずに寝室にあった拳銃を持ち去っていること、そしてテーブルに残された2つのグラスから犯人は来客だった可能性があることがわかった。

さほど広くなかったデビッドの交友関係から、誰よりも彼のことを知る親友、新しい恋の相手となりかけていた女性、亡くなった妻の親戚、前妻との間の子どもなどが洗われたが、犯人として結びつけられるだけの条件を満たす者は見つからなかった。また、すぐ近くの町でデビッドと同年代の中年夫婦が殺害される事件が起こり、ほどなく逮捕された前科持ちの男にデビッド殺害事件への関与が疑われたが、完璧なアリバイがそれを阻む。捜査は完全に暗礁に乗り上げてしまった。

全くといっていいほど進展がないまま2年以上が過ぎたある日、事態は急展開を迎える。ノース・カロライナにある水を抜かれた貯水池の底から、デビッドの寝室から持ち出された銃が発見されたのだ。フロリダでデビッドを殺した犯人が、およそ900km離れたその土地まで捨てにきたと考えるのが自然だろう。

この発見はデビッド殺害事件の謎を解く鍵であると同時に、数か月前に寄せられた“被害者不明の殺人事件”に関するタレコミの信憑性を大きく引き上げた。それは、とある女性からの「自分の恋人であるウィリアム・ウェスターマンから、2年前に友人と2人でフロリダに住む男性を殺したと打ち明けられた」というものだ。調査を進めると、この情報の中には一般には公開されていない、事件現場にいた人物しか知りえない情報が含まれていたのだ。

まさしく点と点が繋がり“一本の線”となったが、警察は他に首謀者がいることを見越していた。ウェスターマンの供述によって判明したもう一人の実行犯の名は、クリストファー・ランツ。デビッドが前妻との間にもうけた子どもである。しかし10年以上も音信不通となっていた父親を、なぜ今になってわざわざ殺す必要があったのだろうか。

その答えは、クリストファーの浅はかすぎる“欲望”にあった。義理の母親が亡くなったことを耳にしたクリストファーは、いま父親を殺せば一番の近親者である自分に何らかの遺産が入るだろうと目論んだのである。しかし蓋を開けてみれば、父親は他人同然となって久しい息子を相続人に使命しているはずもなかった。深い孤独の悲しみから這いあがろうとしていた者の命を奪ったのが、一番の親近者による愚直な思考回路によるものであったとは、あまりにも皮肉な現実だ。

目撃者、指紋、DNAといった証拠の一切が見つかっていないこの事件において、クリストファーの罪を立証するのは困難を極めた。さらにクリストファーは、逮捕状の発行後に逃亡を図ったかと思えばテレビカメラの前での逮捕を望んだり、裁判において弁護士を雇わずに自力で無罪を勝ち取ろうとしたりと、奇行を繰り返す。ようやく2006年に終身刑が言い渡されるも、その3年後に刑務所内で囚人を殺した後に自殺。最後の最後まで傲慢かつ身勝手な男であった。 

「狙われた隣人」はディスカバリーチャンネルにてご視聴頂けます。ディスカバリーチャンネルを未視聴の方は、こちらからご確認ください。

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