Credit : Southwest China Germplasm Bank Of Wild Species In Kunming - Credit: Getty Images

世界の植物の箱舟は多様な未来を創造する…その歴史

種子バンク。Smithsonianによれば世界に約1,750存在しており、地域に根差したものから国が管理するものまで規模は様々だ。

なぜ種子バンクができたのか、そしてなぜ必要なのか。その成り立ちは作物の品種改良と深く関係していた。

種子バンクの成り立ち

おなじ小麦であっても、肥沃な土壌で育てられた品種と、やせこけた山岳地帯でなんとか生き残ってきた品種とではその特徴や強度はまったく違ってくる。その差は、長い年月をかけてその地域の環境に適応してきた遺伝子の多様性からきているのではないか?と農作物の多様性について最初に研究したのはソビエト連邦のニコライ・ヴァヴィロフ(1887-1943)だった。

Credit: Global Crop Diversity Trust via Facebook

ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のサラ・ペレス氏によれば、ヴァヴィロフは世界各地を巡って種子のサンプルを採取し、在来品種の遺伝子多様性について研究した。彼がロシアに持ち帰った種子は当時世界最大の種子コレクションとなり、今でもニコライ・ヴァヴィロフ記念全ロシア植物栽培研究所に受け継がれている。

ヴァヴィロフ以前にも世界中から種子を集めたコレクションは存在していたのだが、主に種(species)の多様性に目が向けられていた。ヴァヴィロフは、同じ種の中のさらに細かい分類の属(genus)の多様性に初めて目を向けた。そして彼のコレクションは後の種子バンクの原型となった。

見直された多様性

1940年代にアメリカのロックフェラー財団が後ろ盾となって始まった第二の農業革命ともいわれる「緑の革命」は、農作物の生産性の向上させるために科学的な品種改良が行われ、コムギやトウモロコシの交配種が次々と誕生した。そのおかげで食糧難を免れた地域は少なくなかったが、同時に世界中で同じ品種の作物が育てられるようになると「遺伝的浸食(genetic erosion)」が問題視されるようになった。

Credit: Pixabay

遺伝子の多様性が失われると、疫痢が流行ると作物が全滅しかねない。遺伝子の多様性があるからこそ、多様なリスクを回避できるのだ。ところが国際連合食糧農業機関(FAO)によれば、すでに全世界の75%にのぼる作物の遺伝資源は失われてしまったという。

そこで、1970年代から在来品種の保護に向けて国際的な取り組みが始まった。世界中に種子バンクが設置され始めたのもこの時期だ。1971年には国連の指導のもと国際農業研究協議グループ(CGIAR)が結成され、世界各国で次々と農作物の研究機関が設立された。その中でも、

・国際熱帯農業センター (CIAT)        コロンビア
・国際トウモロコシ・コムギ改良センター (CIMMYT)メキシコ
・ 国際馬鈴薯センター (CIP)ペルー
・国際乾燥地農業研究センター (ICARDA)シリア
・国際半乾燥熱帯作物研究所 (ICRISAT)       インド
・国際熱帯農業研究所 (IITA)ナイジェリア
・ 国際稲研究所 (IRRI)フィリピン
・ アフリカ稲センター (WARDA)

にはそれぞれの地域において主要な農作物の種子バンクが設置されている。

スバールバル世界種子貯蔵庫(ノルウェー)

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種子バンクで一番有名なのは、先日こちらでも紹介した北極圏にあるスバールバル世界種子貯蔵庫ではないだろうか。上記の8ヵ所を含む、世界中のローカル種子バンクから集められた作物の種子89万個以上を−18℃で冷凍保管しており、今後人類がどのような人災や天災に見舞われようとも小麦、米、マメ、トウモロコシ、ダイズ、イモ類やバナナを含む主要な農作物を未来の人類に提供するのがその目的だ。

いかなる災害にも耐えうるために、種子は山の中へ120メートル続くトンネルの先に作られた金庫のような部屋の中に保管されており、頑丈なコンクリート壁と重い鉄の扉に守られている。万が一ほかの種子バンクが災害により破綻しても、スバールバルの種子がバックアップとなり、世界の生物多様性を担保している。

ミレニアムシードバンク(イギリス)

Credit: Kew

王立植物園キューガーデン内に設置された種子バンクで、スバールバルと違って主に野生種の種子を保管している。現在80,000以上の種子サンプルが保管されており、2020年までに世界中に棲息している在来種のおよそ25%の種子をコレクションに加えるという非常に野心的な目標を掲げている。

優先的に集められているのは農作物の祖先にあたる野生種、樹木と、野生での絶滅が危惧されている植物の種子だ。こちらも−18℃で冷凍保存されている。 

種子バンクの役割

「種子バンク」と言われているが、じつは「種子図書館」に近いのでは、と話すのはアメリカ合衆国農務省に所属するクリスティーナ・ウォルターズ氏だ。

「バンク」というと預けっぱなしという印象があるが、種子バンクに預けられている種子はむしろ図書館の本のようだという。貸し出しもできるし、情報を読み取ることもできる。しかし、それらの本自体から新しい物語や可能性が生まれてこない。その本から得た情報や知識をもとに、人間がどれだけ想像力を発揮できるかが鍵だとウォルターズ氏はいう。

From Lack Of Diversity To Lack Of Funding, Seed Banks Face a World Of Challenges (Smithsonian)

Saving the gene pool for the future: Seed banks as archives (Studies in History and Philosophy
of Biological and Biomedical Sciences)

FAQ About the Seed Vault (Crop Trust)

Banking against Doomsday (The Economist)

Seed Collection (Kew Royal Botanic Gardens)

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